2課の別の関係者は「特捜は自分たちの復活しか考えていなかったが、下働きに終わるつもりは全くなかった」と振り返る。特捜と2課は翌2012年、金融商品取引法(旧証券取引法)違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで旧経営陣など計7人を逮捕。特捜は5人、2課は2人と身柄を分け合う異例の捜査となった。
東京地検特捜部は特捜の通称のほか、仲間内では自分たちを「マルトク」という“隠語”で呼んでいる。その内部構成は「経済班」「財政班」「特殊直告班」という体制だ。
経済班は2課が逮捕した容疑者の身柄送検や、任意で捜査した書類送検を受け付けるほか、金融庁・証券取引等監視委員会(SESC、日本版SEC)が刑事告発する金融商品取引法違反事件、内閣府・公正取引委員会が刑事告発する談合などの独占禁止法違反事件を扱う。
財政班は財務省・国税庁東京国税局(査察部)が刑事告発する法人税法違反や所得税法違反などの脱税事件を捜査。特殊直告班は市民らからの刑事告訴を受理・処理する直告係を抱えつつ、政官界のサンズイを独自に掘り起こすエース班である。
一方、2課こと警視庁捜査2課は「第2知能犯(班)」「第3知能班」「第4知能班」など数多くの班を有する。2知は選挙違反、3知と4知はサンズイを担当。特に3知は大型事件を扱うエース班だ。司法試験に合格した法律家の少数精鋭組織が特捜。全国30万人警察職員のうち4万6000人を擁する警視庁において、人海戦術で捜査を強力に推進するのが2課だ。所轄の知能犯係も2課の指揮下にある。
最強の捜査機関の双璧は全く異なる特性を持つ。元警視庁幹部は「片や洋上風力発電の収賄事件で代議士を逮捕したのに続き前法務副大臣を公選法違反事件で捜査するなど今年も目覚ましい活躍ぶりなのに対し、特殊詐欺事件の処理に追われるもう一方の“横綱”という対照的な図式は、さすがに寂しい限りだ」と複雑な心情を口にした。(敬称略)
【プロフィール】
宇佐美蓮(うさみ・れん)/1960年代、東京都大田区生まれ。ジャーナリスト。元マスコミ記者で、警視庁や警察庁の取材に長く携った。著書に小説『W 警視庁公安部スパイハンター』がある。