「私は恵まれたことに、出演する作品は自分で決めさせてもらっています。驚くことに芸能界のほとんどはその真逆で、事務所が決めてきた仕事を“やる”のが普通、という慣習が長年あります。俳優としても、社会人としてもそれは当然のことだと思うので、だから私も20代の前半、その慣習にならって立て続けに連続ドラマに主演した後、会社に“これからは自分で選ばせてください”と直談判したんです。
『筆子』を受けた理由は“インディーズ中のインディーズ”で、面白そうと思って興味が湧いたから。だけどもし、障害者を型にはめたような作品であれば、お断りしようと思っていました」
かつて『愛していると言ってくれ』(1995年、TBS系)や『ビューティフルライフ』(2000年、TBS系)で障害に携わる役を好演した常盤だけに、その描き方にはこだわりがあった。
「ですが、監督とお会いして、ご自身に障害のあるお嬢さんがいることをうかがって。障害を持つ人と一緒にいることの楽しさと、一方で周囲にいる人たちの苦労とを話してくださって、この監督にしか描けない世界観がきっとあるんだろうな、と思ってその部分に強く心惹かれ、出演を決めました」
期待と不安が入り混じるなか、初めての“超インディーズ映画”の現場で常盤が体感したのは「自由」とそこから生まれる創造力だった。
「『筆子』は実際に障害を持つ子供たちがたくさん出演する作品。彼らが台本から外れたせりふを口にしたとき、普通の監督なら即座にNGにしますが、山田監督は子供たちが脱線すればするほど『いいぞ! やれ! もっとやれ!』と焚き付けるんです。それが面白くって(笑い)。おかげで彼らのイキイキした表情が撮れて、見ている方もつられて笑ってしまうようないいシーンになる。俳優として、すごく勉強になる現場でした」
それ以降、監督から“出てよ”と声がかかると、たとえ1日しかスケジュールがなくても駆けつけ、山田組の常連に名を連ねている。
常盤が役について監督と深く話し合い、納得した末に出演を決めた一方、『わたしのかあさん』が3作目の山田作品となる渡辺いっけいは「オファーが来たら役柄を確認する前に二つ返事で引き受けます」と笑う。
「山田監督はとにかく人間的にチャーミング。山田さんに会いたい一心で、台本を確認する前に即座に『やりたい』と言ってしまう(笑い)。現場で監督と触れ合えるのは、ものすごく豊かな時間。
多くの人が『面倒だから』と見て見ぬふりをすることを山田さんは“自分ごと”として直視して意見を述べる。ぼくもそうですが、多くの役者はキャリアを重ねるにつれ、現場で波風を立てないよう、何かしらのバランスを取る処世術を覚えてしまう。だからこそ山田さんのようにズドンとした主張を持つ人に会うと、自分の小ささが恥ずかしくなります。監督がそのシーンにぼくがいてほしいと思うなら、協力できることがあるなら行きますよ、といつも思っています」(渡辺)
(第2回へ続く)
※女性セブン2023年12月14日号