「最後はガーナに帰りたい」
〈身内には父親同様の有名人もおりまして、迷惑をかけたくなくて(今回の事件で)全ての縁を切った部分もあります〉
今年夏に届いた森川からの手紙には、筆圧の強いボールペン字でそう綴られていた。
5年前に亡くなった森川の父は、一流国立大学の名誉教授で、ドイツ文学の専門家だった。エリート一族で育った森川だったが、父の背中を追うことなく、不良として少年時代を過ごした。名門の私立高校に入学するも、暴走族に入って少年院送りとなり中退。
両親に勘当されてからは不動産業界に就職し、都内の一等地に会社を構えた。日本人女性と結婚し、4人の子供に恵まれた。しかしリーマンショックの影響で多額の負債を抱え、会社を潰す。家庭もばらばらになった。路頭に迷っていた頃、不動産業界の知人から「ガーナで儲かる金融ビジネスがある」と言われ、2015年5月、ガーナの首都アクラへ飛んだ。
ところが、その金融ビジネスとはほとんど詐欺に等しいもので、日本人の出資者から集めた1700万円を溶かしてしまう。その頃、宿泊先のホテル受付で働いていたのが、ロマンス詐欺のもう一人の主犯格とされ、現在逃亡中のコフィだった。コフィと仲良くなった森川は、やがて「送金ビジネス」を持ちかけられる。これが国際ロマンス詐欺に関わる入り口だった。森川が振り返る。
「最初は断りました。ですが、ガーナに滞在中、入国管理局の職員や警察から『パスポートを見せろ! ビザを取り消すぞ』などと脅迫され、コフィたちに助けてもらったので、その見返りに引き受けることにしたんです」
森川はアクラに保有する2つの銀行口座、そして知人の日本人たちの口座をコフィに提供した。日本から送金があると、コフィと一緒にショッピングモールにある銀行窓口へ行き、現金をドル建てで引き出してコフィに手渡した。そうして2018年から3年間、森川の2つの口座に集まった現金は総額約8500万円。検察の調べでは、総額約1.1億円の残り約2500万円は、暗号資産を使って送金されたとみられる。それらの金が、ロマンス詐欺で騙し取った被害金だったのだ。
公判の争点は、森川が被害金だと知っていたか否か、送金から報酬を得ていたか否かの2点だった。検察から追及された森川は曖昧な答弁に終始し、いずれもはっきり認めない。私との面会でも同じような反応で、「自分は口座を貸しただけ」と言い張る。つまり、ロマンス詐欺の実行犯はコフィたちガーナ人で、日本人は「受け子」に徹していたというのだ。送金からは「報酬はもらっていない」と断言したが、面会で問い詰めると、銀行までの「交通費」や「食費」として少額だけ受け取ったことは認めた。
こうした森川の曖昧な証言について、判決は森川と日本人共犯者およびコフィとのSNS上のやり取りを証拠に、こう断じた。
「詐欺被害者からの送金であることをはっきり認める供述をしており、(中略)事実関係からも、日本からガーナへの送金移動が架空の人物に恋愛感情を抱かせ、金銭を騙し取る詐欺であることを認識していた」