そんな複雑な思いを抱きつつもスマホを利用していた峯岸さんに、孫が見せてきたのは「昭和の老人」が面白おかしく取り上げられている某YouTubeチャンネルだった。見れば老害だ、昭和の人だと言うコメントが相次いでおり、一見すると「老人ヘイト」で人目を集めようとする醜悪なチャンネルに思えた。しかし、件の動画に出てくる主役的な老人の姿勢に衝撃を受けたと振り返る。
「ネット上で嫌われている老人像を自身で面白おかしく演じていたんです。最初は、老人を馬鹿にするなとか、老人が老人を腐すな、と複雑な思いでしたが、見ていくとこれが随分面白い。昭和の時代はこうだった、という動画に、若者からは”あり得ない”とか”古い”というコメントがつきますが、我々世代らしい人たちからは”懐かしい”といった意見が寄せられるし、若いユーザーと高齢ユーザーのやりとりが生まれることもある。世代が違っても、共通の話題があれば話し合えるし、心が通じる場合もあると思いました」(峯岸さん)
峯岸さん自身も、このチャンネルを見始めたことで、孫との会話が増え、チャンネルのファンだという息子の妻からも「昔って本当にこんな感じだったんですか?」と聞かれたりして、コミュニケーションの機会は格段に増えたと話す。
「正直、馬鹿にされていると感じたこともあるけど(笑)、無視されたり排除されるよりはマシだし、新たな世界が広がったような気もしています。同い年の高齢者たちがネットで活躍しているのをみると、それこそ勇気をもらえます。ネットに怖さを感じることは、今ではあまりなくなりました。まあ、ネットと言っても現実の世界とあまり変わらないんですよ、実際は」(峯岸さん)
ウェブショップにキャリア20年のパッチワークを出品
「ネットも現実も変わらない」という気づきにより、ネットを活用するようになったり、行動範囲が広がったという高齢者は少なくないのかもしれない。栃木県在住の槙原祥子さん(仮名・70代)も、娘とテレビを見ていたところ、偶然みかけた高齢の「カメラマン女性」の存在を知り、実生活も大きく変わったと言う。
「テレビに出ていた90代のおばあちゃんが、自分で写真を撮って、その写真を面白く加工してネット上で公開する、ということをやられていました。この年ですごいね、という娘に私は内心苛立っていました。私はそのおばあちゃんよりずいぶん若いんですから」(槙原さん)
スマホは持っていたものの、使うのは電話とメッセージの時だけ。「ネット使って何かやってみたら」という娘と相談をして始めたのが、趣味のパッチワークグッズをネットで販売する、というものだった。