それだけではない。岸田首相にとって派閥の前会長である古賀氏は今なお頭が上がらない存在だ。古賀氏は政界引退した2012年に岸田氏に派閥会長の座を禅譲して名誉会長に就任(2020年に退任)したが、引退後も派内に睨みを利かせてきた。
資金力からもその力の一端がわかる。古賀氏の政治団体「古賀誠筑後誠山会」は寄附やパーティーで年間約6800万円の収入があり、繰越金は6億円を超える(いずれも2022年分)。さらに、数多くの岸田派議員のパーティーやセミナーに会費を支出していることがわかる。
政治評論家・有馬晴海氏が語る。
「岸田さんは古賀氏から派閥の後継者に指名されなければ、総理大臣への道はなかったでしょう。だから頭が上がらない。しかも、岸田さんが派閥会長になった後、2人は緊張関係が続いています。古賀氏はハト派の宏池会会長である岸田さんがタカ派の安倍晋三・元首相の言いなりになっていたことに頼りないと不満を募らせ、2020年の自民党総裁選では岸田さんではなく菅義偉・前首相を支持する発言までした。それで岸田さんは大敗した」
岸田首相が総理になってからも、緊張関係は続いているという。
「形式的に解散したとはいえ、岸田派が政権を支えている状況に変わりはない。その中で古賀氏は岸田さんではなく、ナンバーツーの林芳正・官房長官の後見人的存在です。岸田さんにとって古賀氏は恩人であると同時に、機嫌を損ねたらいつ政権の足元を揺さぶられるかわからない、気を遣わなければならない存在なのです」(同前)
そうした関係だけに岸田派内には「消えた558万円」について次の見方がある。
「古賀先生の政治団体が政治資金収支報告書を訂正したのは岸田派が議員総会で解散を正式に決定した翌日だった。古賀先生は総理が一存で伝統ある宏池会の解散を決めたことに怒っているから、総理は文句を言われないように、解散前に古賀先生がこれまで売ってくれた派閥パーティー券の代金を返還したのではないか」(同派関係者)
岸田首相は岸田派を退会した後も、独断で同派の解散を決めるなど実質的な会長として権限を行使してきた。同派の裏金の会計処理についても逐一報告を受け、同意を与えていたはずだ。予算委員会と政倫審で微妙に発言を修正したのは、558万円の裏金の処理について知っていたからこそではないのか。