今回の紅麹サプリメントも、トクホとして販売しなかった理由について同社は「トクホの申請には時間がかかるため、いち早くお客様に商品をお届けしたいと考える社風などから、機能性表示食品を選びました」と回答している。
「そもそも機能性表示食品が登場したのは安倍内閣の経済成長戦略『アベノミクス』の一環。“国民の健康を増進し、市場を活性化させるためにスピード感のある健康食品開発を可能にしたい”と2015年にスタートさせました」
機能性表示食品の登場によって健康食品の市場は大いに活性化し、ある調査会社によると、2023年における機能性表示食品の市場規模は、前年比19.3%増の6865億円になる見込みだ。
「しかしその内情は、効果に乏しく安全性の担保も疑われるような商品がはびこるリスクに満ちたもの。
人間に摂取させた臨床試験が必要とされるトクホですら医薬品レベルの臨床試験は行われていませんし、効果の根拠となる論文を精査すると、被験者の数が少なかったり、わずかな効果を大きく見せていたりと、信用度が低いものが多い。
臨床試験の必要がなく、効果の論拠が精査されることもない機能性表示食品に至っては、さらに安全性の担保が下がることは明白だといえます」
つまり市場に流通した「機能性表示食品」はわれわれが口にしてはじめてその安全性や効能が「精査」されるのだ。これではまるで、消費者は「臨床試験」の実験台だ。
アメリカでも話題の「危険なサプリ」
林芳正官房長官は今回の件を受け、「機能性表示食品にまつわる制度についての今後のあり方や、サプリメントや健康食品における健康被害の情報収集体制の見直しについて、5月末をめどに取りまとめるように」と関係閣僚に指示を出し、機能性表示食品として届け出のある約6800製品について事業者に調査を求めたことを明らかにした。
今後、安全性を担保すべく規制が強化されることが期待されるが、国や企業の検証や実験が不充分である現状では、消費者一人ひとりがサプリメントに伴う危険や健康被害について改めて知っておく必要がある。実際、海外の論文をひもとくと、「危険な成分」が次々と浮かび上がってくる。米ボストン在住の内科医、大西睦子さんが指摘するのは、ビタミンEサプリの危険性だ。
「ハーバード大学の研究者らが、複数の論文を集めて解析したところ、ビタミンEのサプリをのんでいた人は、脳梗塞のリスクが10%低下する一方で、出血性脳卒中のリスクが22%増加していることが明らかになりました。脳卒中のリスクが倍以上あることを考えれば、安易に摂取するべきではないでしょう。
加えて高用量のビタミンEを摂取すると、死亡リスクを高めるという研究結果もあります」
体内でビタミンAに変化するβ-カロテンのサプリメントも同様だ。
「一方のグループにはβ-カロテンのサプリ、もう片方に偽薬を投与する喫煙者を対象にした大規模実験がアメリカとフィンランドで行われました。するとβ-カロテンを投与されたグループの方が、肺がんや心臓病による死亡者数が多いことがわかったのです。緑黄色野菜を多く摂取する人は病気になりにくいこともまた、多くのデータによって明らかになっているため、β-カロテン自体が悪いわけではなくサプリメントでの摂取で健康を害するということが示唆されたことになります」(左巻さん)