『自分で決められる子になる育て方ベスト』(サンマーク出版)より

『自分で決められる子になる育て方ベスト』(サンマーク出版)より

◆親の先回りが子どもの諦めない心を折る

 近年問題となっている「ヘリコプターペアレント」をご存じでしょうか?

 我が子が困難や恐怖といった心理的ストレスを感じそうな状況を先回りして、その子の人生から一つ残らず取り払おうとする親のことを指す言葉です。こうした状況下で育った子どもは、自ら目標を達成することの意義や、勝っても負けてもありのままの結果を受け入れることの大切さを学ぶ機会を失ってしまうのです。

 周囲の大人たちのこのようなふるまいが、恐ろしいことに子どものモチベーションだけでなく、子どもの脳にも影響を与えている可能性が近年の研究結果からも示唆され始めています。

 2014年にメアリー・ワシントン大学の社会心理学者であるミンデイ・アーチェル博士らが行った研究において、ヘリコプターペアレントのもとで育った子どもの傾向が明らかになっています。

 ヘリコプターペアレントのもとで育った子どもたちは、現在の生活に不満を抱きやすく、抑うつ傾向を示すことが多いのです。この調査では「親からの過干渉は、子どもの能力や独立心の発展を妨げるだけでなく、子どもの幸福感を奪い、大人になってからプレッシャーにうまく対応する力を失わせる」と報告されています。

 また、2016年にフロリダ州立大学から発表されたカイラ・リード博士らの研究によると、ヘリコプターペアレントを持つ成人は、健康問題を抱える割合が高いことがわかりました。常に親がそばにいて、一つひとつの食べ物、運動、就寝時間などすべての生活習慣にわたって指示してくれないと自らの体を労ることができず、成人しても体のケアができないということのようです。

 また、2018年にミネソタ大学のニコール・ペリー博士が行った422人の子どもを対象とした8年間の追跡調査では、干渉が多い親に育てられた子どもほど、感情のコントロールが苦手で社会性が低く、学習面で苦労する傾向があると報告されています。

 この研究では、子どもが2歳のときに両親がうるさく口出しをしたり、行動を制限したりすると、5歳のときに自分の感情や行為をコントロールできない傾向が確認されました。

 さらに、5歳のときに自分の感情や行為をコントロールできる子どもほど、10歳のときに感情が安定して、社交的で学校の成績も良い傾向が認められたそうです。

 これらの研究からわかるのは、親が子どもに干渉せず、挑戦する機会を与えることの重要性です。

 そのためには、たとえ親が理想論だと感じても、子どもに「結果は大事じゃない、過程が大事だ」と何度でも口にして伝えていくようにしましょう。本人が結果を気にした報告をしてきたとしても、返答は「ナイストライ!」がおすすめです。

第3回へ続く

【プロフィール】
柳澤綾子(やなぎさわ・あやこ)/医師、医学博士。東京大学医学系研究科公衆衛生学客員研究員、国立国際医療研究センター元特任研究員。麻酔科専門医指導医。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。公衆衛生学を専攻し、社会疫学、医療経済学およびデータサイエンスを専門としている。15年以上臨床現場の最前線に立ちながら、大学等でも研究し、海外医学専門誌(査読付)に論文を投稿。年間500本以上の医学論文に目を通し、エビデンスに基づいた最新の医療、教育、子育てに関する有益な情報を発信している。自らも二児の母であり、データに基づく論理的思考と行動を親たちに伝える講演や記事監修、執筆なども行なっている。『世界一受けたい授業』『J-WAVE TOKYO MORNINGRADIO』『VERY web』など、メディア出演、連載記事執筆多数。現在は株式会社Global Evidence Japan代表取締役として、母親目線からの健康と教育への啓発活動も精力的に行っている。著書に『身体を壊す健康法』(Gakken)がある。

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