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勝海舟の江戸城無血開城「柳腰外交」仙谷氏とはものが違う

識者50人にSAPIOが実施したアンケート「最強のタフネゴシエーターは誰か」で6位になったのが江戸無血開城で知られる幕閣の勝海舟だ。明治維新軍との交渉を高崎経済大学教授の八木秀次氏が振り返る。
 * * *

 大政奉還後の1868年(明治元年)3月15日、明治新政府軍は江戸城総攻撃を計画していた。実施されれば江戸は火の海になり、町民120万が犠牲になる。徳川慶喜の命のみならず徳川家自体が潰される。この最悪の事態を周到な計画によって直前で止めさせ、江戸無血開城を実現させたのが幕府側の代表、勝海舟だ。

 3月9日、駿府に迫っていた新政府の東征大総督府を訪ねた勝の使者・山岡鉄舟は、江戸城総攻撃回避の7か条を新政府側の代表・西郷隆盛から提示される。慶喜の身柄を差し出すこと、江戸城を引き渡すこと、軍艦・武器のすべてを引き渡すこと、慶喜を補佐した人物を処罰することなどが要求されていた。

 そして3月13日。江戸の薩摩藩邸に勝自ら赴き、西郷と会見した。この日は挨拶を交わし、7か条を確認しただけで終わった。
 
 そして、勝と西郷の2回目の会見が3月14日に行なわれる。勝から先の降伏条件への回答がなされた。慶喜は故郷の水戸で謹慎する。慶喜を助けた者の処分は寛大に行ない、命に関わる処分はしない。軍艦・武器はまとめておき、寛大な処分の後に引き渡すことなどが提示された。西郷が示した7か条と相当の開きのある内容だったが、勝はひたすら嘆願した。西郷は京都に持ち帰った。その結果、翌日の総攻撃は寸前で中止となった。
 
 4月11日、江戸城は新政府に引き渡された。慶喜は勝の提案通り、水戸に謹慎になり、命は助かった。徳川家も存続した。
 
 明治31年(1898年)3月、勝の働き掛けによって慶喜は明治天皇に謁見して名誉回復した。
 
 負けているように見えながら結局のところ実利を得る。勝の交渉術が仙谷由人がのたもうた「柳腰外交」とはレベルが異なるゆえんだ。

※SAPIO2011年1月6日号

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