ライフ

宗教学者の中沢新一氏「原発は日本における一神教だった」

【書評】『大津波と原発』(内田樹、中沢新一、平川克美著/朝日新聞出版/777円)

【評者】香山リカ(精神科医)

 * * *
 大震災発生以来、私たちはどうしても、その日その日の情報を追いかけてすごしてきた。しかし、今こそ必要なのは“大ぶりの話”、つまり文明史的な観点から今回の未曽有の災害や原発問題を語ること。そんな主旨で、一筋縄ではいかない論客3人が集まった。そう厚くはない一冊だが、今後の日本を考える上で重要なキーワードがちりばめられている。

 たとえば、「原発は日本における一神教」というワード。中沢氏は、「決定的に今までのものとは構造が異なって」いるにもかかわらず、深くその原理や意味などが考えられることもなく、大量生産、大量消費を至上命題とする経済と結びついてとにかく「やみくもに推進」されてきた原発こそ、日本にかつてなかった一神教なのではないか、と発言する。

 だとしたら、それは神仏習合、なんでもアリでやって来た日本にとっては、そもそもきわめてなじみにくい存在だったはずだ。中沢氏の発言を受けて内田氏はこう言う。「一神教的な遠い神に弱いんだよ、日本人は。荒ぶる神を鎮める方法を知らないんだ」。

 だから原発事故はいつまでも収束しない、というのは飛躍がありすぎかもしれないが、たしかに不可侵の大聖堂さながらの原発に近づけず、周辺から水をかけたり取水口におがくずを詰めたりしている私たちの姿は、唯一神の出現に戸惑う民のようにも思える。

 なんだ、現実離れの文化論か、と鼻白むなかれ。座談会の後半で、中沢氏はこれまでのエネルギー革命や農業政策、エコロジー思想などを超えた「エネルゴロジー」を提唱し、それを実現するために「日本版・緑の党」を発足させたい、と語る。

 これはネットでも「中沢新一、政党立ち上げか」などとかなり大きな話題となったので、目にした人も多いだろう。興奮する内田氏が、党のヴィジョンをきくと、中沢氏は「まあお待ちください。そのうち宣言と綱領が出ます」と前向きともあいまいともつかない答えを返す。

 本気で期待しています!

※週刊ポスト2011年6月17日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

清原和博氏は長嶋さんの逝去の翌日、都内のビル街にいた
《長嶋茂雄さん逝去》短パン・サンダル姿、ふくらはぎには…清原和博が翌日に見せた「寂しさを湛えた表情」 “肉体改造”などの批判を庇ったミスターからの「激励の言葉」
NEWSポストセブン
貴乃花は“令和の新横綱”大の里をどう見ているのか(撮影/五十嵐美弥)
「まだまだ伸びしろがある」…平成の大横綱・貴乃花が“令和の新横綱”大の里を語る 「簡単に引いてしまう欠点」への見解、綱を張ることの“怖さ”とどう向き合うか
週刊ポスト
引退すると言っていたのに誰も真面目にとりあっていなかった(写真提供/イメージマート)
数十年続けたヤクザが引退宣言 知人は「おめでとうございます」家族からは「大丈夫なのか」「それでどうやって生きていくんだ」
NEWSポストセブン
インタビュー中にアクシデントが発生した大谷翔平(写真/Getty Images)
《大谷翔平の上半身裸動画騒動》ロッカールームでのインタビューに映り込みリポーター大慌て 徹底して「服を脱がない」ブランディングへの強いこだわり 
女性セブン
映画『八日目の蝉』(2011)にて、新人俳優賞を受賞した渡邉このみさん
《ランドセルに画びょうが…》天才子役と呼ばれた渡邊このみ(18)が苦悩した“現実”と“非現実”の境界線 「サンタさんを信じている年齢なのに」
NEWSポストセブン
アーティスト活動を本格的にスタートした萌名さん
「二度とやらないと思っていた」河北彩伽が語った“引退の真相”と復帰後に見つけた“本当に成し遂げたい夢”
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、小泉家について綴ります
《華麗なる小泉家》弟・進次郎氏はコメ劇場でワイドショーの主役、兄・孝太郎はテレビに出ずっぱり やっぱり「数字を持っている」プラチナファミリー
女性セブン
調子が上向く渋野日向子(時事通信フォト)
《渋野日向子が全米女子7位の快挙》悔し涙に見えた“完全復活への兆し” シブコは「メジャーだけ強い」のではなく「メジャーを獲ることに集中している」
週刊ポスト
1966年はビートルズの初来日、ウルトラマンの放送開始などが話題を呼んだ(時事通信フォト)
《2026年に“令和の丙午”来たる》「義母から『これだから“丙午生まれの女”は』と…」迷信に翻弄された“昭和の丙午生まれ”女性のリアルな60年
NEWSポストセブン
6月2日、新たに殺人と殺人未遂容疑がかけられた八田與一容疑者(28)
《別府ひき逃げ》重要指名手配犯・八田與一容疑者の親族が“沈黙の10秒間”の後に語ったこと…死亡した大学生の親は「私たちの戦いは終わりません」とコメント
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問される佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
《ブラジルへ公式訪問》佳子さま、ギリシャ訪問でもお召しになったコーラルピンクのスーツで出発 “お気に入り”はすっきり見せるフェミニンな一着
NEWSポストセブン
渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト