大人力コラムニスト・石原壮一郎氏の「ニュースから学ぶ大人力」。今回は「今年の漢字」に選ばれた「絆」を題材に、「今年の漢字をいかに大人として幅広く活用するか」を考えます。
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いつの間にか恒例になった「今年の漢字」の発表。日本漢字能力検定協会がその年の世相を表わすのにふさわしい漢字を募集し、もっとも応募が多かった字を京都・清水寺の貫主(かんす)が「清水の舞台」で巨大な和紙に揮毫します。なぜ清水寺なのかはよくわかりませんが、きっと大人の思惑や事情があるのでしょう。
すでにご存知のとおり、2011年の「今年の漢字」の座を獲得したのは「絆」でした。過去最多の49万6997票の応募があり、トップの「絆」は6万1453票を集めたとか。ちなみに2位は「災」、3位は「震」。以下「波」「助」「復」……と続きます。
せっかくここまで定着しているんですから、したり顔で「大震災があった今年は、まさに“絆”の大切さを考えさせられる一年だったな」なんて凡庸なことを言って満足している場合ではありません。そういうオヤジは、新橋の飲み屋街だけでもひと晩に1000人単位で出現しているはず。大人として、もっと貪欲に、もっと幅広く活用しましょう。
まずは「絆」という字に活躍してもらう方法。ストレートに納得するのではなく、ちょっと皮肉を込めて、「たしかに“絆”の強さを思い知った一年だったなあ。原発の利権に群がっている人たちとか、身内をかばいあう検察とか、芸能界と裏社会とか……」と言えば、シビアな目で世の中を見ている人のようなフリができます。
憎からず思っている女性をお酒に誘って、「2011年もいよいよ押し迫ってきたけど、『今年の漢字』にちなんで、さらに“絆”を深めるのはどうだろう」と提案してみるのも一興。旬の話題ということで、口にする勇気を振り絞れそうです。
たいていは戸惑われるか笑ってスルーされるかでしょうけど、そういう場合は「も、もちろん、ほんの冗談だけどね」という顔ができるというメリットも。たまには、うまく行かないとも限りません。
「今年の漢字」というコンセプト自体も、いろんな場面で使えます。オフィスで上司や同僚との話題に困ったら、「○○さんにとって『今年の漢字』は何ですか?」と尋ねれば、それなりに気が利いていて深い会話を交わした気になれます。
商談やキャバクラ、あるいは家庭でも積極的に繰り出したいところ。当然、こっちも聞き返されますが、上のランキング上位に入ってくる漢字ではなく、趣味や個人的な事件にからめて、多少エピソードを話せるような一文字を考えておきましょう。
必要ならば「私にとっての今年の漢字は、佐藤部長の『佐』です。本当に今年はお世話になりました」などと露骨なオベッカをぶつけるために使うのも、大人の勇気であり、大人ならではの「絆」の深め方です。……おっと、図らずも話がひと回りしました。