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陸連の「世界で戦える選手をマラソン五輪代表に」に疑問の声

 やはりというべきか。揉めに揉めた男子マラソン・五輪代表選考理事会(3月12日)までの顛末。その予兆はあった。

 東京・渋谷区にある日本陸連。数日前から五輪選考についての問い合わせ電話が殺到していた。「世界で戦える選手に五輪切符を与える」という陸連のあいまいな選考基準についての疑問だった。

 小誌が幾度も指摘してきた通り、この基準は見方によってはどうとでも取れるのだ。例えば、日本陸連の理事・瀬古利彦氏(55)はびわ湖毎日マラソン(3月4日)で日本人1位(全体4位)になった“飛脚ランナー”こと山本亮(佐川急便)について、

〈本人が一番びっくりでしょ。この雨の中、タイムはいい。だけどレースの内容は褒められたものじゃないね。前を行く選手を追い掛けて行っただけだから、強さを感じない〉(日刊スポーツ・3月5日)

 と激辛だ。2時間8分44秒のタイムにほとんどのマスコミが“当確”を打ったが、それを全面否定するコメントである。では、瀬古氏のいう五輪で勝てる条件とは何か。

〈五輪は夏のレースだし、途中のペースアップも半端じゃない。だから粘れる人であり、世界を経験している人がいい〉(同)

 粘れる人、世界を経験している人。そう聞いてまっさきに浮かぶのは福岡国際(2011年12月4日)の川内優輝(埼玉県庁)の激走だろう。

 公務員というハンディを背負うにもかかわらず今井正人(トヨタ自動車九州)、前田和浩(九電工)ら実業団エリートと競り合い、日本人最高位となる3位を獲得した。18位ながら世界選手権(大邱)も経験している。

 だが、川内についても瀬古氏は辛辣だった。レース終了後のコメント――。

〈好勝負のように見えてレベルが低い。だから、手に汗握らなかったよね。(中略)しかし(川内の走りは)「何もんだ走法」だな。僕は宗さんと並ぶと呼吸を消していた。楽なように思われるためにね。でもアイツはやかましい。まわりの空気も全部吸って、並走ランナーの魂まで抜いちゃってる感じだよね。今井や前田もド肝抜かれただろう。忍者よりすごいよ〉(同・12月5日)

 また、瀬古氏が解説を務めた東京マラソン(2月26日)では、川内が失速した22~23キロ過ぎの場面において、「川内選手は、キツイ顔をしてます」「余裕がないですね」と熱く実況。

 ネット上は、「川内が遅れだしたら、何故か瀬古が喜んでいた」といった話題で盛り上がった。瀬古氏が手厳しいのは川内だけではなかった。

 今回の選考レースで川内とともに話題を呼んだ藤原新(30)は、JR東日本陸上部などを経て、現在は「無職ランナー」である。東京マラソンでは、同じ非実業団ランナーの川内を退け2位。タイムも2時間7分48秒と今季日本人トップ。だが、瀬古氏は川内がレース中、給水ボトルを取り損ねたことに触れた後、こう続けた。

〈実は、川内の危うさは藤原にもあるんだ。ともに実業団に属さず、1人で走っている。勢いがある時はいいが、つまずいた時に修正が利かない。監督やコーチがいないからね〉(同・2月27日)

 川内、藤原ら非実業団ランナーへの辛口コメントは、瀬古氏個人というよりも、日本陸連を代弁した意見のように聞こえて仕方がない。

 実際、陸連関係者はいう。

「実業団の指導者や指導法は、陸連が立ちあげた強化委員会で育まれたもの。それが実業団の練習に不満を持ってフリーになった藤原や、実業団に在籍経験のない川内らが活躍するのは陸連としても立場がない」

※週刊ポスト2012年3月23日号

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