ドラマ化されたロングセラーコミック『孤独のグルメ』(扶桑社刊)の原作者である久住昌之(くすみ・まさゆき)氏。大人の休日の最高の過ごし方として、久住氏が提唱するのが「セント酒」である。以下、氏による「セント酒」のススメである。
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ボクが「セント酒」と名付けているもの。それはただ、昼間から銭湯の湯船に浸かり、その後で冷えたビールをやる、というそれだけのことだ。だけどこれに勝る至福はない。昼間の風呂、昼間の酒。2つの「サイコー」が重なるのだから。
開いたばかりの銭湯。天窓から日の光が斜めに入ってきて、そこに湯気がかかっている。大浴槽の湯の中で体を伸ばすと、心まですーっと伸びる。高い天井に、オケの音がコーンと響く。
お湯と石鹸の香りを楽しんだ後、表に出るとまだ明るい。まるで一日を振り出しに戻したかのようなさっぱり感ときたら! もう、自然と顔がほころんでしまう。
その後のビールの旨さに説明はいらないだろう。やっぱりアルコールの最高の隠し味は「背徳感」なんだよ。
昼間に居酒屋の暖簾をくぐると、ちょっぴり自分がアウトローになった気がする。そんな後ろめたさが酒の味を豊かにする。飲んでもまだまだ今日が残っているという時間的余裕も、酒をグーンと旨くする。だから、昼の酒はさわやかだし、酔いも明快だ。
その点、夜の酒は「言い訳」が多い。「疲れたから」「イヤなことがあったから」……、そんな気持ちで、残り少ない時間と格闘しながら飲んでいると、ついつい意地汚く暗い酒に陥ってしまう。夜の酒も魅力的だけど、やっぱり昼の酒の爽快さにはかなわない。
銭湯に500円、ビールに500円……。僕はワンコインで買える「セント酒」以上の幸せを知らない。だから、自信をもってオススメできる。男の休日はこれに限る、と。
さて、今日はどこに行こう。浜田山の「浜の湯」から居酒屋「かのう」に流れて、自家製の〆鯖で冷や酒をやろうか。それとも立会川まで足を延ばして、「日の出湯」で巨大なタイル絵を眺めつつ、近くの「鳥勝」でモツ焼きとビールか……。
※週刊ポスト2012年6月29日号