国内

原発ゼロで夏越すと原発不要論が出るから再稼働したとの指摘

「政府の安全評価は停止中」と報じられる中、“大飯の次”の再稼働論議は「規制庁」が発足する9月以降になる、との見方が大勢だ。しかし、事実は若干異なる。四国電力の伊方(いかた)、北陸電力の志賀(しか)、九州電力の玄海(げんかい)、川内(せんだい)……再稼働に向け、ストレステスト結果を審査する原子力安全・保安院では、専門家の意見聴取会が今も着々と進んでいる。

 これまで専門家委員として議論に参加し、政府のなし崩し的な手法に異を唱え続けてきた井野博満・東京大学名誉教授が、「結論ありき」で進められる安全評価の内幕を明かす。

 * * *
 電力会社が提出したストレステストの評価書を原子力安全・保安院と原子力安全委員会で審査、そして地元の理解を経て、政府が最終決定原発の再稼働手続きを一見すると、専門家がその安全性を確かめた上で、国や地元が運転再開の可否を決めるように見える。

 しかし、先ごろ再稼働した大飯原発を巡る一連の動きを振り返ると、安全性を置き去りにした「結論ありき」の本末転倒な事態に陥っていることは明らかだ。

 まず、ストレステストの評価結果の妥当性を判断する保安院は「再稼働の可否は政治レベルで総合的な判断を行なう」ものとし、責任転嫁した。さらに、その保安院が提出した審査書を受ける安全委の班目春樹委員長はストレステストの内容そのものに疑問を投げかけている。

 つまり、原子力の専門家が安全性をきちんと評価していないにもかかわらず、結局は政治家が安全対策の暫定基準を決め、地元の同意を取り付けて再稼働に至ったのである。

 この間、各電力会社は今夏の電力需給見通しを出したが、特に関西電力は、需給ギャップを全国で最も厳しいマイナス14.9%と発表した。そして、官民一体となって「原発を再稼働しなければ大規模停電が避けられない」と電力不足をアピールし続けた。さらに、関電管内で15%の節電目標を掲げつつ、停電によるリスクを喧伝した。「原発再稼働」を容認する方向へ、世論を誘導してきた感が否めない。

 政府は、夏を迎える前にどうしても再稼働したかったのではないか。原発の稼働がゼロのまま夏を越してしまうと、「原発不要論」が出てくる。原発維持のためには、最も需給が逼迫している関電管内で再稼働し、その必要性を訴えなければならない。さらに言えば、大飯を突破口に、他の原発についても再稼働への扉を開きたかったのだろう。

 私が参加する意見聴取会では大飯3、4号機の安全性評価について論点や問題点がいくつも出た。にもかかわらず、保安院が途中で議論を打ち切って、大飯原発の再稼働を急いだのもそのためと思われる。

 その後、“大飯の次”についての議論では、保安院側の姿勢は少し様子が変わって、結論を急ぐというよりも、むしろ慎重に、無難に議論を進めようとしている印象だ。だが、それぞれの評価結果の内容を検証すると、相変わらず問題が多く、安全性への疑問は尽きない。

※SAPIO2012年8月1・8日号

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