ライフ

ネット右翼 在日コリアンに「死ね」と叫ぶのは強者への抵抗

 ウェブ上で圧倒的な存在感を見せる“ネット右翼”。ついにはリアルな保守運動をも生み出しつつある。彼らを長期に亘って取材してきたジャーナリストの安田浩一氏が、その実態に迫る。

 * * *
 ネット右翼が“資源”となり、新しい保守運動の流れも生まれている。キーボードを連打するだけでは飽き足らず、リアルな連帯と団結で戦う「行動する保守」の一群である。彼らはネットを地盤としながら、ときに街頭に躍り出て、排外主義的な言動を直接、「敵」にぶつける。

 その代表とも言える存在が「在日特権を許さない市民の会」(在特会・会員数約1万2000人)であろう。

 在特会は、在日コリアンをはじめとする外国人が「日本で不当な権利を得ている」と訴えるネット出自の市民団体だ。朝鮮学校の授業料無償化や、外国籍住民への生活保護支給に反対するデモを各地で繰り広げている。

 ときには過激な行動も辞さない。京都朝鮮第一初級学校が近隣の公園を体育の授業などで使用していることを「不法占拠」だとし、同校に集団で押しかけた事件では、逮捕者まで出して世間の注目を集めた。

「(朝鮮人は)日本に住まわせてやってるだけだ」「キムチくさい」「ウンコでも食っとけ」などとメンバーらが学校関係者を罵倒する場面はネットの動画サイトでも広まり、在日コリアン社会に恐怖を抱かせた。

 こうした在特会の主張を「差別的」だと批判する私に対し、同会メンバーは怒気を含んだ声で激しく詰め寄った。

「それのどこが悪いのか。この国では外国人ばかりが優遇されている。日本は日本人だけのものであるべきだ」

 また幹部のひとりは「我々の運動は階級闘争だ」と私の取材で言い切った。

「左翼だろうと労働組合だろうと、あんなに恵まれた人たちはいませんよ。そんな恵まれた人々によって在日などの外国人が庇護されている。差別されてるのは我々のほうですよ」

 これこそがネット右翼と呼ばれる人々に共通する「被害者感情」ではなかろうか。在日に対して「ゴキブリ」「死ね」と叫ぶのは、彼らの理屈を拝借すれば強者へのレジスタンスなのである。

 一方、昨今は在特会だけではなく、「保守」を自任する者たちによるデモや街頭宣伝活動も活発化している。韓流ドラマの放映が多すぎるとして数千人規模の人が集まった「フジテレビ抗議デモ」も、その流れのひとつだろう。参加者の多くは番組編成の偏りを批判し、在特会のようにあからさまな「差別」をぶつけたわけではない。

 しかし、ひとりひとりに話を聞いてみれば、日本が「貶められている」「韓国の脅威を感じる」「メディアが在日に支配されている」と訴える者が少なくなかった。そうした危機感はレイシズム(人種差別)と容易に結びつく。

 なにかを「奪われた」と感じる人々の憤りは、この時代状況にあって収まりそうにない。おそらくナショナルな「気分」はまだ広がっていく。しかしそれは必ずしも保守や右翼と呼ばれるものではない。日常生活のなかで生じた不安や不満が行き場所を求め、たどり着いた地平が、たまたま愛国という名の戦場であっただけではないのか。

※SAPIO2012年8月22・29日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

TOKIOの国分太一(右/時事通信フォトより)
《TOKIO解散後の生活》国分太一「後輩と割り勘」「レシート一枚から保管」の節約志向 活動休止後も安泰の“5億円豪邸”
NEWSポストセブン
大谷翔平の新投球スタイルを分析(Getty Images)
《二刀流復活》進化する“投手・大谷翔平” 「ノーワインドアップ」と「シンカーボーラーへの移行」の新スタイルを分析
週刊ポスト
中山美穂さんをスカウトした所属事務所「ビッグアップル」創設社長の山中則男氏が思いを綴る
《中山美穂さん14歳時の「スケジュール帳」を発見》“芸能界の父”が激白 一夜にしてトップアイドルとなった「1985年の手帳」に直筆で記された家族メモ
NEWSポストセブン
結婚式は6月26日に始まり3日間行われた(時事通信フォト)
《総額72億円》Amazon創始者ジェフ・ベゾス氏の豪華結婚式、開催地ベネチア住人は「億万長者の遊び場に…」と反発も「朝食17万円、プライベートジェット100機貸し切り」で市長は歓迎
NEWSポストセブン
藤川監督(左)の直訴を金田氏(右)が存命であればどう評したか
阪神・藤川球児監督の「練習着にハーフパンツ着用」直訴で思い出される400勝投手・金田正一さんの言葉「大投手になりたければふくらはぎを冷やしたらアカン」
NEWSポストセブン
「札幌のギャグ男」公式インスタグラムより
《特別支援学級編入を決断した当事者の声》「小3の知能で止まっている」と宣告された中学1年生が抱えた“複雑な思い”「母さんを楽にしてやれるって思ったんだ」
NEWSポストセブン
STARTO ENTERTAINMENTの取締役CMOを退任することがわかった井ノ原快彦
《STARTO社取締役を退任》井ノ原快彦、国分太一の“コンプラ違反”に悲しみ…ジャニー喜多川氏の「家族葬」では一緒に司会
NEWSポストセブン
仲睦まじげにラブホテルへ入っていく鹿田松男・大阪府議(左)と女性
石破“側近”大阪府連幹部の府議、本会議前に“軽自動車で45分ラブホ不倫” 直撃には「知らん」「僕と違う」の一点張り
週刊ポスト
国民民主党から公認を取り消された山尾志桜里氏の去就が注目されている(時事通信フォト)
「国政に再挑戦する意志に変わりはございません」山尾志桜里氏が国民民主と“怒りの完全決別”《榛葉幹事長からの政策顧問就任打診は「お断り申し上げました」》
NEWSポストセブン
中居正広氏と被害女性の関係性を理解するうえで重大な“証拠”を独占入手
【スクープ入手】中居正広氏と被害女性との“事案後のメール”公開 中居氏の「嫌な思いをさせちゃったね。ごめんなさい」の返事が明らかに
週刊ポスト
24時間テレビの募金を不正に着服した日本海テレビ社員の公判が行われた
「募金額をコントロールしたかった」24時間テレビ・チャリティー募金着服男の“身勝手すぎる言い分”「上司に怒られるのも嫌で…」【第2回公判】
NEWSポストセブン
妻とは2015年に結婚した国分太一
「“俺はイジる側” “キツいイジリは愛情の裏返し”という意識を感じた」テレビ局関係者が証言する国分太一の「感覚」
NEWSポストセブン