安倍晋三首相が唱える経済政策、アベノミクスについてさまざまに論議されているが、メディアでは批判よりのものが目立つ。これに対してジャーナリストの長谷川幸洋氏は、真の論点は民間の競争原理を促す政策が盛り込まれているかどうかをチェックすべきだと指摘する。
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アベノミクスという言葉がすっかり定着したが、メディアには斜に構えて眺めているような評価が多い。たとえば、朝日新聞は「失敗したら借金だらけ」という記事でこう指摘している。
「(円安になれば)輸出が多い製造業は海外でモノを安く売れるようになり、もうけも大きくなって業績が回復する。しかし、公共事業を増やせば国の借金がふくらむ。日銀がお金を流し過ぎれば、物価上昇に歯止めがきかなく(なって、中略)借金の山が積もっていく」(2012年1月8日付朝刊)
政策論議は現状認識からだ。まず、いまの景気は良いのか悪いのか。悪い。原因はデフレである。そのデフレは脱却したか。してない。これが出発点だ。中には「デフレは仕方ない」と実は暗黙裡に容認していて、そこから議論を始める論者がいるが、そういう人と議論しても意味はない。
経済成長を促すために先進国の経験でだいたい一致しているのは、規制改革と教育改革の重要性である。市場機能を生かして内外無差別の競争を促す。そのために規制改革を進める。それから教育についても、自立心を高め、より高い目標に向かって努力を促す。そうした政策が結果として長期的な経済成長につながる。
スポーツの世界を考えれば、すぐ分かる。競争しないで一番になれるか。みんながスポーツ選手に夢中になるのは、そこにひたむきな努力と栄光、あるいは残酷な結果があるからだ。
ビジネスもまったく同じである(私だって、いい加減な原稿を書いていたら、すぐ連載打ち切りになる)。だから、アベノミクスの真の論点は「民間の競争を促す政策が盛り込まれているかどうか」というところにある。
そういう観点から見ると、1月8日付の日本経済新聞朝刊が報じた官民ファンドが花盛りになりそうなのは懸念材料だ。「官が投資を主導する」といえば一見、もっともらしい。だが、政府から異常に低い金利で調達した資金を原資に投資活動をすれば、ライバルの民間ファンドは太刀打ちできず、金融活動の民業圧迫につながる。投資ファンドが相次いで日本から撤退するような事態にもなりかねないのだ。「日本は社会主義」と言われないようにチェックするのはメディアの役割でもある。(文中敬称略)
※週刊ポスト2013年1月25日号