『かっぱえびせん』(1964年)でスナック菓子業界の雄に躍り出たカルビーは、1973年に『サッポロポテト』、1975年に『ポテトチップス』を発売。じゃがいもスナックにかけては他の追随を許さない独走を続けてきた(その後も『じゃがりこ』『じゃがビー』などヒットを連発)。
現在、全売り上げの6割がじゃがいも関連商品によって占められているが、長年の悲願はじゃがいも以外の素材を使ったヒット商品を生み出すことだった──。現在は玉ねぎ、かぼちゃ、じゃがいも、さつまいも、かぼちゃのチップス「ベジップス」が好調だが、この商品はいかにして生まれたのか。
「じゃがいも以外に、かぼちゃやさつまいも、玉ねぎなどに挑戦してきましたが、なかなかうまくいかない歴史がありました」
と語るのは、同社マーケティング本部の柚木英明。じゃがいもと同じ根菜だから、技術的には難しくないのでは? と思うのは素人の発想。実は、じゃがいもと同じ製法でかぼちゃやさつまいもを素揚げすると、真っ黒に焦げてしまうのだという。
「これはかぼちゃやさつまいもなどの特徴です。水分を抜くには砂糖漬けにするしか方法はなかったのです。つまりいもけんぴのような甘い商品にしかならなかった」
課題は、砂糖に漬けずに水分を抜くこと。長年の研究の結果、2005年にようやくテーブルテストの段階で美味しいスナックが仕上がるまでになった。
カルビーでは新商品を量産化する前に数店舗で試験販売をすることがある。手作りで袋詰めも自ら行なう少量販売だ。焦げてしまったり、生のままだったりして材料の半分がダメになることもあった。
試作品の少量販売であっても原料は買い付けなければならない。せっかく購入した原料を使い切れない事態もしばしばだった。
周囲からの「一体いつまでやっているんだよ」という声も柚木の耳に直接入ってくるようになった。そうした時期を乗り越えて2010年、近畿地方での限定販売が始まった。
「関西のお客様の目は厳しいですが、納得頂けると買ってくださる。“ヒントはお客様の声にある”を実践しました」
限定販売の出足は好調だった。当初2000万円程度の売り上げ目標が初年度で2億3000万円を達成。さらに翌年は13億円と大きくふくれあがった。
2012年10月、いよいよ念願の全国展開を完了した。ベジップスは店頭に並んだそばから売れていく。先行販売していた近畿での好調さが噂になり、全国販売でも大きな追い風になっていた。
売れすぎて生産体制を整えるために2012年11月には一時的に販売を休止する事態にも陥ったほどだ。柚木がいう。
「かぼちゃや玉ねぎをチップスにするという発想は誰もが思いつくもので、決して斬新なものではありません。今までもチャレンジしてきたけれどもできなかった。“粘り”と“諦めない心”、そして“打たれ強さ”がイノベーションを生んだのだと思います」
●取材・構成/中沢雄二、文中敬称略
※週刊ポスト2013年3月1日号