少子高齢化が進む国内から、収益の見込める新興市場を中心とする海外へ──多くの日本企業が描くシナリオだが、メガバンクにとっても「グローバル化」はキーワードだ。ただし、世界にはクレディ・スイスやJPモルガン、HSBCといった列強がひしめく。日本の3メガバンクはそれら欧米大手の後塵を拝してきたのが現実だ。トヨタや日産など世界のトッププレーヤーが国内に複数いる自動車産業とは違う。
しかし、世界市場は何が起こるかわからない。リーマン・ショックに続くユーロ危機により、欧米大手が自己資本を充実させるため新興市場から手を引く動きを見せているのだ。 金融ジャーナリストの森岡英樹とジャーナリストの永井隆の両氏が、三井住友銀行の戦略をリポートする。
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「日本にある高度な環境技術を、私たちの力で新興国に活かしていきたい」
工藤禎子・三井住友銀行成長産業クラスター室長は話す。同室は2010年7月に前身のプロジェクトチームが発足、その名の通り成長産業であり、これから市場創造を目指す分野を扱う。再生可能エネルギー、水ビジネス、シェールガスなどの資源、環境インフラ、さらにはミャンマーといったフロンティア市場そのものだ。
特に、2011年2月に決めたベトナムの民間水力発電(ソン・バック社)に対する最大5000万ドルの融資契約は歴史的な一打。日本貿易保険を活用し、中国電力が建設や運転のコンサルを担う。現在、出力42メガワットの発電所を北部ハザン省に建設中だ。工藤氏はソン・バック社のドー・バン・ビン社長の人柄についてこう語る。
「まだ40代と若く、凄く情熱的な起業家です。この人なら、日本の高い環境技術をベトナムで活かすことができると思いました」
中古バイク販売で財を成し、電力不足を解消しようと水力発電事業を構想した。しかし、門外漢だったため、どうすることもできずにいた。そこに三井住友が入り、夢が形になったのだ。
日本の水力発電技術は世界最高水準。しかし、国内にはもうダムを建設する場所がない。そのため、中国電力にとっては若手への技術伝承の場としてベトナムの発電所を活用できるメリットが生まれた。
「実は、プロジェクトの途中でブレイク(ご破算)しそうなことは何度もありました」
と工藤氏は打ち明ける。商習慣の違いや、新進気鋭のビン社長のこだわりと日本流の仕事の進め方がぶつかるなどして、計画が壁に当たることはたびたびあった。新興市場のビジネスではよくある話だが、それを乗り越えなければグローバル化は成し得ない。
助走期間は2年ほど、同室で主に関わったのは6人。工藤氏が起用した40代前半の男性チームリーダーは、現地で「ベトナムの文化を知って欲しい」とコブラ料理を振る舞われた。時には豚の生き血やハクビシンを使った料理を出される。リーダーはしばし体調を崩すが、「ディープな世界にも入ることが必要です。真のグローバル化を進めるためには、みんなタフでなければやれません」と工藤氏はきっぱり話す。
※SAPIO2013年3月号