ライフ

酢締めなどが定番のサワラを瀬戸内の漁師「刺身の王様」と絶賛

 寿司屋の湯のみによく描かれている魚を表す多様な漢字をみると、魚偏の隣には、実に様々な漢字が書かれているのがわかる。そのなかには、春夏秋冬という字もあるが、それぞれどんな魚のことを指しているのか、釣り関連の著書を多く執筆・編集している高木道郎氏が解説する。

 * * *
 魚偏に夏と書いてワカシ、オイカワ、秋はカジカ、ドジョウ、冬はコノシロ。いずれも季節を代表する魚としては役者不足。魚偏に夏でイサキ、タカベ、アユ、秋はサンマ、サバ、カワハギ、ハゼ、冬ならアンコウ、ブリ、メジナ、ワカサギあたりが適任ではなかったかと思う。ところで、魚偏に春と書く魚をご存じだろうか。

 答えは鰆=サワラ。春ならマダイ、メバル、フナあたりが適任だと思うが、他の季節に比べるとまだ納得できる。サワラの旬は冬から春。関西より西、なかでも瀬戸内ではサワラで春を知るとさえ言われる。関東は厳寒期に獲れるサワラを寒ザワラ、春のサワラを花見ザワラと呼んで珍重する。

 サワラは狭腹、小腹、馬鮫魚、狭腰(サゴシ)とも書く。サは小さい、狭い、細いをあらわす接頭語。サンマやサバ、サヨリのように細長い魚に付けられるが、サワラはサハ(斑葉=斑入りの葉)と接尾語のラの合成語で、形ではなく背の模様が語源だとする説もある。

 馬鮫魚の鮫は鋭い歯にちなんで付けられた文字だろう。サワラの口には鋭い歯が並び、ナイロンやフロロカーボンのハリスはちょっと触れただけで抵抗もなく切れてしまう。

 秋田県男鹿半島の冬、さほどの手応えもなくハリスを切られるバラシが続いた。正体が分からないまま、素早く合わせてハリスを背負わせないようにやり取りすると、海面に浮いたのは40センチ級のサワラだった。

 私の地元である湘南江ノ島の裏磯でも、冬から春にかけ、サラシでルアーを曳くとサワラがアタックしてくる。1尾釣るとルアーは噛み痕でボロボロになる。サワラは足が早いので酢締め、照り焼き、味漬けにされたりするが、刺身は瀬戸内の漁師が「刺身の王様」と絶賛したほど。江ノ島で釣ったサワラの刺身もほんのりした青臭さが春を感じさせて美味しかった。

■高木道郎(たかぎ・みちろう)/1953年生まれ。フリーライターとして、釣り雑誌や単行本などの出版に携わる。北海道から沖縄、海外へも釣行。主な著書に『防波堤釣り入門』(池田書店)、『磯釣りをはじめよう』(山海堂)、『高木道郎のウキフカセ釣り入門』(主婦と生活社)など多数。

※週刊ポスト2013年5月3・10日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

愛子さま
【愛子さま、日赤に就職】想定を大幅に上回る熱心な仕事ぶり ほぼフルタイム出勤で皇室活動と“ダブルワーク”状態
女性セブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
嵐について「必ず5人で集まって話をします」と語った大野智
【独占激白】嵐・大野智、活動休止後初めて取材に応じた!「今年に入ってから何度も会ってますよ。招集をかけるのは翔くんかな」
女性セブン
不倫騒動や事務所からの独立で世間の話題となった広末涼子(時事通信フォト)
《「子供たちのために…」に批判の声》広末涼子、復帰するも立ちはだかる「壁」 ”完全復活”のために今からでも遅くない「記者会見」を開く必要性
NEWSポストセブン
前号で報じた「カラオケ大会で“おひねり営業”」以外にも…(写真/共同通信社)
中条きよし参院議員「金利60%で知人に1000万円」高利貸し 「出資法違反の疑い」との指摘も
NEWSポストセブン
二宮が大河初出演の可能性。「嵐だけはやめない」とも
【全文公開】二宮和也、『光る君へ』で「大河ドラマ初出演」の内幕 NHKに告げた「嵐だけは辞めない」
女性セブン
昨年ドラフト1位で広島に入団した常広羽也斗(時事通信)
《痛恨の青学卒業失敗》広島ドラ1・常広羽也斗「あと1単位で留年」今後シーズンは“野球専念”も単位修得は「秋以降に」
NEWSポストセブン
品川区で移送される若山容疑者と子役時代のプロフィル写真(HPより)
《那須焼損2遺体》大河ドラマで岡田准一と共演の若山耀人容疑者、純粋な笑顔でお茶の間を虜にした元芸能人が犯罪組織の末端となった背景
NEWSポストセブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【ケーキのろうそくを一息で吹き消した】六代目山口組機関紙が報じた「司忍組長82歳誕生日会」の一部始終
NEWSポストセブン
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
元工藤會幹部の伊藤明雄・受刑者の手記
【元工藤會幹部の獄中手記】「センター試験で9割」「東京外語大入学」の秀才はなぜ凶悪組織の“広報”になったのか
週刊ポスト