国内

亀井静香氏の息子が板橋で往診医 異変なら24時間駆け付ける

島田氏は27歳のときに訪問診療専門の板橋区役所前診療所を開院

 独居老人、老老介護、孤独死……。急速な高齢化に伴い、高齢者医療・介護問題には暗いニュースがつきまとう。

 今後、ますます必要とされる地域ネットワーク。介護ヘルパーのみならず、町のかかりつけ医や往診医が定期的に訪問してくれれば、安心して在宅医療も受けられるのだが、慢性的な医師不足から、それもままならないのが現状だ。

「往診に行くと、働き盛りの息子さんが親の介護をしていたり、70歳の息子さんを90代のお母さんが介護する逆転現象が起きていたりと、いろいろな家族の姿を目にします。中には、家計が苦しいために自分の親の面倒を諦めて、介護ヘルパーの資格を取って他人の親を世話している女性までいて驚きました」

 こう話すのは、訪問診療を専門とする板橋区役所前診療所の島田潔院長(44)。同氏を含めて常勤医師8人が月間約2500件の往診患者を抱えている。通院困難な患者の容体に異変があれば、24時間365日対応で診察に駆け付ける。年間100名は訪問先で最期を看取るというから、島田氏がいかに板橋区民にとって掛け替えのない、信頼される往診ドクターかがうかがえる。

「昔、先輩医師にこんなことを言われました。『患者さんから、先生に命を救ってもらいたいと懇願されるより、先生になら殺されてもいいと思われたら名医の証だ』と。私も医者の卵だった時代から、野戦病院のような場所に出向き、より困っている人や苦しんでいる人の診察をしたいと思っていましたので、診察室に籠っているより外に出る往診医の仕事は肌に合っているんです」

 そもそも島田氏が医師という職業を志したのは、高校2年生のとき。父から言われた言葉がきっかけとなった。

「キヨシ、昔は人生50年。自分のことかせいぜい家族のことで必死な時代。でも今は人生80年。自分や家族のためだけに生きたら空しいぞ」

 父親の名は「亀井静香」。剛腕イメージの強い、あの政治家だ。しかし、島田氏が高校時代、すでに名字は母方の姓に変わっていた。

「私が小学校に上がると同時に両親は離婚しました。当時、父は警察官僚として浅間山荘事件の陣頭指揮を取り、家にはほとんどいませんでした。その代わり、自宅には大勢の新聞記者が情報収集のために押しかけて、『奥さん、奥さん』ってドアをノックする。そんな生活が嫌になって、母は私と兄を連れて家を出ました」

 その後、島田氏は母親に育てられ亀井氏とは音信不通になったものの、たまたまテレビに映った政見放送で父親が政治家に転身したことを知り、より嫌悪感を覚えたという。だが、母の健康不良を機に、10年ぶりに亀井氏と再会することに……。

「なにせ10年も会ってなかったので、距離を縮めるのに2年近くかかりました。政治家といえば、立派な職業に見られる一方で、悪の代名詞みたいな存在にもなる。特に父はあのイメージでしょ(笑い)。いくら親とはいえ、久しぶりの再会は警戒しましたよ」

 それが父子の会話を重ねることによって、次第に雪解けムードへ。ここでは亀井氏の剛腕ぶりがプラスの作用に働いた。

「会わなかった10年間、息子に男として教えたかったことを一生懸命話してくれる中で、父の苦労を知ったし、ハートもある人なんだと気付きました。議員会館に行くと、陳情に来る大企業の役員は後回し。いくら秘書が説得しても、学生や農家の人たちの話を先に聞くような光景も見ました」

 父との関係修復を果たす過程で、政治家とは畑こそ違えど、「人を助ける」理念で通ずる医師への道を選んだ島田氏。帝京大学医学部卒業後は、難民キャンプやPKOへの派遣を志願するも、結局は東京大学附属病院第4内科(高血圧研究室)への就職を決めた。ところが、在籍したのはわずか3年だった。

「帝京から内科の研修医として東大に入局したのは私が初めて。そのまま勤務すればステータスも上がったとは思いますが、出向に出された板橋の健康長寿医療センターで在宅医療にやりがいを感じてしまい、今の診療所を立ち上げることにしました」

 板橋区役所前診療所の開院は1996年11月。島田氏は27歳の若さだった。

「父にそのことを報告したら、『せっかく東大に入ったのに……』と、3分ほど天井を見上げて溜め息をついてました(笑い)。でも、『まぁ、お父さんのような波乱万丈の人生も悪くないか。やるからには頑張れ!』と応援してくれました」

 最初はパートの看護師と理学療法士2人とともに始めた小さな診療所も、いまやスタッフ78名を抱える大所帯に。

「これまで往診したお宅は板橋区内で5000軒ではきかないかもしれません。ただ、いくら規模が大きくなっても医療は地域密着性が高いので、診療区域を広げてチェーン展開するようなことはしたくありません」

 大地よりも広く、海よりも深く、空よりも高く、太陽よりも熱く――。壮大な行動規範をつくり地域医療に邁進し続ける島田氏。冷静で穏やかな受け答えの奥底にあるのは、父親譲りの熱きDNAと揺るぎない矜持に違いない。

●取材・文/田中宏季
●撮影/横溝敦

関連キーワード

関連記事

トピックス

嵐について「必ず5人で集まって話をします」と語った大野智
【独占激白】嵐・大野智、活動休止後初めて取材に応じた!「今年に入ってから何度も会ってますよ。招集をかけるのは翔くんかな」
女性セブン
SNSで「卒業」と離婚報告した、「第13回ベストマザー賞2021」政治部門を受賞した国際政治学者の三浦瑠麗さん(時事通信フォト)
三浦瑠麗氏、離婚発表なのに「卒業」「友人に」を強調し「三浦姓」を選択したとわざわざ知らせた狙い
NEWSポストセブン
前号で報じた「カラオケ大会で“おひねり営業”」以外にも…(写真/共同通信社)
中条きよし参院議員「金利60%で知人に1000万円」高利貸し 「出資法違反の疑い」との指摘も
NEWSポストセブン
昨年ドラフト1位で広島に入団した常広羽也斗(時事通信)
《痛恨の青学卒業失敗》広島ドラ1・常広羽也斗「あと1単位で留年」今後シーズンは“野球専念”も単位修得は「秋以降に」
NEWSポストセブン
中日に移籍後、金髪にした中田翔(時事通信フォト)
中田翔、中日移籍で取り戻しつつある輝き 「常に紳士たれ」の巨人とは“水と油”だったか、立浪監督胴上げの条件は?
NEWSポストセブン
二宮が大河初出演の可能性。「嵐だけはやめない」とも
【全文公開】二宮和也、『光る君へ』で「大河ドラマ初出演」の内幕 NHKに告げた「嵐だけは辞めない」
女性セブン
新たなスタートを切る大谷翔平(時事通信)
大谷翔平、好調キープで「水原事件」はすでに過去のものに? トラブルまでも“大谷のすごさ”を際立たせるための材料となりつつある現実
NEWSポストセブン
品川区で移送される若山容疑者と子役時代のプロフィル写真(HPより)
《那須焼損2遺体》大河ドラマで岡田准一と共演の若山耀人容疑者、純粋な笑顔でお茶の間を虜にした元芸能人が犯罪組織の末端となった背景
NEWSポストセブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【ケーキのろうそくを一息で吹き消した】六代目山口組機関紙が報じた「司忍組長82歳誕生日会」の一部始終
NEWSポストセブン
元工藤會幹部の伊藤明雄・受刑者の手記
【元工藤會幹部の獄中手記】「センター試験で9割」「東京外語大入学」の秀才はなぜ凶悪組織の“広報”になったのか
週刊ポスト
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
【初回放送から38年】『あぶない刑事』が劇場版で復活 主要スタッフ次々他界で“幕引き”寸前、再出発を実現させた若手スタッフの熱意
【初回放送から38年】『あぶない刑事』が劇場版で復活 主要スタッフ次々他界で“幕引き”寸前、再出発を実現させた若手スタッフの熱意
女性セブン