スポーツ

東京マラソンに渋谷のスクランブル交差点が入らなかった理由

 新宿にある東京都庁前から出発し、銀座や浅草など東京の名所をめぐり、お台場でゴールする東京マラソン。世界記録も狙う国際大会の側面もあるが、市民ランナーが東京観光を兼ねて出場する大会として定着しつつある。現在のコースに、海外からの観光客にも人気の渋谷・原宿が含まれなかったのはなぜなのか、作家の山藤章一郎氏が、その理由に迫った。

 * * *
 ママチャリで1年間、毎週、走ってコースを決めた偉人氏、〈スポーツ振興局〉の早崎道晴さんが最も思いを深くするのが、銀座4丁目交差点である。

 東京マラソンは7時間で行なわれる。通過したブロックごとに順に封鎖が解除される。だが、銀座は2度通過する設計で、ほぼ5時間閉じられる。

「テレビ映りも考えて見栄えのよい道など、主要道路はほぼ走りました。しかも東京の観光に役立つコース。交通量が多いとバツ。渋谷のスクランブル交差点を入れたかったけど、新宿から渋谷は山と谷。登り下りがきつすぎて断念しました」

 銀座4丁目は避けて通れない。東京のヘソである。だが、日曜日には約10万人の通行人がある。偉人は、交差点が見通せるドトールの窓際に陣取り、日曜日の人の流れをノートに克明に書き込んだ。有楽町からの流れを4丁目ではなく、1丁目に回せないか。商店会と話し合った。

 警視庁とも会合をかさねた。相手はいう。7時間走る? とんでもない。マラソンは2時間何分だろ。返す。誰もが参加できる市民マラソンです。7時間は要るのです。やがて熱意が伝わる。相手がアイディアを出す。

 地下鉄の上を利用するのはどうか。これなら道路を封鎖しても、下で歩けて人の流れはつながる。だが銀座は、いちばん昔に敷かれた銀座線が通っていて通路が狭い。人があふれて、惨事の起きる危険もある。それなら有楽町線側に流せないか。

 東京マラソンのコースはこうして、銀座4丁目交差点を中心に、結果的に大部分が地下鉄の路線をなぞるかたちになった。

 だが、大きな問題が残った。道路が封鎖されれば、数千の会社、店にお客が近づけない。

「東京のまんなかでマラソン? 店の前を封鎖する? 嘘ですよね、という反応でした」

 殊にホテル、デパートが強硬に反対に立った。警備、車の出入り係、宿泊係、宴会担当から、それぞれ入れ替わり立ち替わり、説明を求められる。デパートの各テナント、学校、結婚式場も説得しなければならない。2月、入試の時期である。

 偉人は「ひたすら、東京の観光とスポーツ振興のためですと頭を下げつづけ」た。それでも納得を得られない。

 ママチャリで走ったことが最後になって利いた。この時間帯のこの場所の車の流れ、人の流れはこうです。こっちに逃がすと、300メートル先の駐車場に誘導できます。こうコーンを並べればこう迂回できます。表を封鎖しても、裏通りでなんとか大型バスを切り返せます。この説得と曲折を経てコースは決まった。

 そして、東京がひとつになる日を無事終えるには、膨大な人と知恵とカネがかかった。

 本年度2013年──。
●医師:40人、看護師66人。
●交通規制チラシ配布:305万枚。
●仮設トイレ:スタート地点、コース上、あわせて1014基。
●コーン:2万5000本。
●沿道の観衆:約130万人。
●総事業費:19億4000万円。
●総スタッフ:1万6000人。

※週刊ポスト2013年8月2日号

関連キーワード

トピックス

違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【国立大に通う“リケジョ”も逮捕】「薬物入りクリームを塗られ…」小西木菜容疑者(21)が告訴した“驚愕の性パーティー” 〈レーサム創業者・田中剛容疑者、奥本美穂容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン
「2024年に最もドッキリにかけられたダマされ王」ランキングの王者となったお笑いコンビ「きしたかの」の高野正成さん
《『水ダウ』よりエグい》きしたかの・高野正成が明かす「本当にキレそうだったドッキリ」3000人視聴YouTube生配信で「携帯番号・自宅住所」がガチ流出、電話鳴り止まず
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【20歳の女子大生を15時間300万円で…】男1人に美女が複数…「レーサム」元会長の“薬漬けパーティ”の実態 ラグジュアリーホテルに呼び出され「裸になれ」 〈田中剛、奥本美穂両容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン
国技館
「溜席の着物美人」が相撲ブームで変わりゆく観戦風景をどう見るか語った 「贔屓力士の応援ではなく、勝った力士への拍手を」「相撲観戦には着物姿が一番相応しい」
NEWSポストセブン
(左から)「ガクヅケ」木田さんと「きしたかの」の高野正成さん
《後輩が楽屋泥棒の反響》『水ダウ』“2024年ダマされ王”に輝いたお笑いコンビきしたかの・高野正成が初めて明かした「好感度爆上げドッキリで涙」の意外な真相と代償
NEWSポストセブン
前田亜季と2歳年上の姉・前田愛
《日曜劇場『キャスター』出演》不惑を迎える“元チャイドル”前田亜季が姉・前田愛と「会う度にケンカ」の不仲だった過去
NEWSポストセブン
フィリピン人女性監督が描いた「日本人の孤独死」、主演はリリー・フランキー(©︎「Diamonds in the Sand」Film Partners)
なぜ「孤独死」は日本で起こるのか? フィリピン人女性監督が問いかける日本人的な「仕事中心の価値観」
NEWSポストセブン
timelesz加入後、爆発的な人気を誇る寺西拓人
「ミュージカルの王子様なのです」timelesz・寺西拓人の魅力とこれまでの歩み 山田美保子さんが“追い続けた12年”を振り返る
女性セブン
不倫報道の渦中にいる永野芽郁
《私が撮られてしまい…》永野芽郁がドラマ『キャスター』打ち上げで“自虐スピーチ”、自ら会場を和ませる一幕も【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
(SNSより)
「誰かが私を殺そうとしているかも…」SNS配信中に女性インフルエンサー撃たれる、性別を理由に殺害する“フェミサイド事件”か【メキシコ・ライバー殺害事件】
NEWSポストセブン
電撃引退を発表した西内まりや(時事通信)
電撃引退の西内まりや、直前の「地上波復帰CMオファー」も断っていた…「身内のトラブル」で身を引いた「強烈な覚悟」
NEWSポストセブン
女性2人組によるYouTubeチャンネル「びっちちゃん。」
《2人組YouTuber「びっちちゃん。」インタビュー》経験人数800人超え&100人超えでも“病まない”ワケ「依存心がないのって、たぶん自分のことが好きだから」
NEWSポストセブン