ライフ

SNSの普及で日常生活や独り言の“競争”始まり負担となった

 SNS、就活、スクールカースト、いじめ……現代の若者を取り巻く問題を鋭く切り取った作品を世に送り出しているのが、史上初の平成生まれの直木賞作家・朝井リョウ氏(24)だ。大学生で華々しく文壇デビューしながら、周りの学生と同じように就活を経験。会社員との二足のわらじを履く異色の若手小説家は、若者たちが置かれた困難な状況をどのように変えていけばいいと考えているのか──。

 * * *
──ツイッターやフェイスブックといったSNSが、若者の新しいコミュニケーション・ツールとして広く普及した。朝井さんが発表した作品の登場人物たちは、日常生活では仲のいい友人のように振る舞いながら、ツイッター上では周囲より自分が優れているように見せたり、他人を貶めようとしたりする。若者たちにとってSNSとは何なのか。

朝井:私は普段の生活の中で違和感を抱いていることから物語の着想を見つけることが多いです。直木賞をいただいた『何者』は就活を扱った作品と紹介されますが、実はSNSに対する違和感から生まれた小説でした。

 私自身、2年ほど前まで大学生でしたが、今の大学生の日常を書こうとしたら、ご飯を食べる場面と同じくらいツイッターを使うシーンが不可欠になっています。SNSは新しくて面白いツールです。ただ、よくない影響を与えている面も少なくありません。

 SNSが普及したことで、好きな時に好きな言葉で発信できるようになった。でも、それによって無駄な競争が行なわれ始めました。リア充(「現実生活が充実している人」という意のネットスラング)や非リア充をアピールしたり、より面白く、より鋭く世の中を論評する独り言をつぶやかなければいけないような雰囲気が生まれています。何気ない日常生活や独り言なんて、これまでは競わなくてもよかった。普通の毎日を競争する感覚って、かなり負担になるものだと思うんです。

 リア充自慢はやり過ぎると周囲に嫌がられる。自分を良く見せ続けるのも大変。だからだんだんと他人を見下してけなすことで自分を“上”に見せるという手法が増えてきた。そういった行動が最も顕著に表出するのが就活です。自分より努力している人を“意識高い”と揶揄することでどうにか安心感を得ようとする。でも、他人のアラ探しをして自分の地盤を固める行為はまったく無意味で、生産性がありません。そうした現象には違和感を抱いています。

 SNSがなかった私の小中学生時代と違って、今はすぐに揚げ足を取られる。ほんの一言がピックアップされて、一気に広まってしまう。「まとめサイト」が作られ、他人のコメントが追加されて編集され、事実関係と照合されて炎上していく。みんな、他人を自分と同じ所にまで引きずり下ろしてやりたくてたまらない。すごく気味の悪い雰囲気なんです。

※SAPIO2013年8月号

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン