10億円で「零戦」のオーナーになりませんか──そんな“夢のある商売話”が方々で持ちかけられている。
第2次世界大戦初期、米英の戦闘機を次々に撃墜して震え上がらせた日本軍の零式艦上戦闘機、通称「零戦」は、今ちょっとしたブームになっている。きっかけは、公開中の映画『風立ちぬ』だ。宮崎駿監督が無類の零戦ファンということもあり、劇中の主人公は零戦の設計士という設定。当時の日本の技術の粋を結集された零戦は、「ものづくり」を大切にする日本人のメンタリティをくすぐる。
そんなブームに便乗したビジネスが、何ともマユツバなのである。東海地方の飲食グループ経営者がいう。
「昨年の秋頃、コンサルタントのX氏から『零戦購入に興味ある人を知らないか』と持ちかけられた。現オーナーは5億円での売却を希望しているが、本物の零戦の相場は10億円。少し値引きしても、数億円の仲介手数料が手に入る。それを折半するから、一緒に買い手を探して儲けないかと誘われた。正直、零戦の相場なんてわからないし、夢のある話だったので、興味を持ってしまった」
戦時中、1万機以上生産された零戦だが、終戦までに大半が破壊された。現存する飛行可能な零戦はアメリカにある4機だけだとされる。ただ、大破状態で発見された後に修復し、オリジナルのパーツは骨組みの一部だけという機体もあり、専門家やマニアの間では、「本物か、レプリカか」「どれだけの価値があるのか」という論争は絶えない。
そのうちの1機のオーナーは、零戦を日本に“帰国”させる活動を行なっている日本人だ。前出のX氏は、その機体の販売仲介をするといって、触れ回っていた。在京の会社経営者がいう。
「私も昨年末にX氏から話を聞いた。売り文句は、『来年、スタジオジブリの宮崎駿さんが零戦の映画を作る。彼は零戦マニアで、購入したいと接触してきている』、『元航空幕僚長の田母神(俊雄)さんも興味を示した』だった。すごいビジネスをする人だと感心した」
同様のセールストークを聞いた人は複数いるが、本誌がスタジオジブリ、及び田母神事務所に尋ねたところ、両者とも「零戦購入を検討した事実は一切ない」と困惑しきりだった。前出の飲食グループ経営者がいう。
「X氏からは、儲かるビジネスを紹介したのだから、まずコンサル料50万円が必要といわれて支払った。その後、航空マニアの知人に購入話を持って行くと、詳しい零戦の状態を確認したいという。
それをX氏に伝えると、『もっと情報がほしいなら、さらに50万円が必要』とさらにカネを要求してきた。これは怪しいと思っていたところ、X氏には巨額詐欺の前科があることもわかり、取引から手を引いた。最初の50万円も返してもらいたいが……」
※週刊ポスト2013年9月20・27日号