酒もタバコもやらず、車やブランド品にも興味なし。一歩進んだ友情や恋愛は面倒くさい――。極めて淡泊なライフスタイルを送る若者たちは「さとり世代」と称され、最近では彼らの冷静沈着で現実的な行動を見直す向きさえある。
しかし、「無欲ばかりの生活ではギスギスした社会になる」と警鐘を鳴らすのは、『ホンマでっか!?TV』でお馴染み、中部大学教授の武田邦彦氏である。以下、武田氏が語る「人生のクオリティを高める遊びのススメ」を聞こう。
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大学の講義で学生たちと向き合っていて感じるのは、最近の学生はとにかく覇気がない。それは、皆が自然に集まって遊ぶことをしなくなったことと無関係ではないでしょう。
僕の若いころ、すなわち戦後復興、高度成長を経て日本が勢いのあった時代の若者の生活といえば、お酒にタバコ、マージャンにパチンコはほとんどの人がやっていた遊びでした。また、スキーや旅行、バーベキューといったアウトドアも盛んで、大勢の仲間とのインタラクション(相互作用)によって、日々の活力を得ていました。
それが今はどうでしょう。学生たちとバーベキューをやろうにも、河原はダメ、公園はダメ……。設備が整った専用のバーベキュースペースは大学から遠すぎて、肉を買ってきて皆で一杯やることさえ叶いません。
先日、番組でご一緒したタレントの山口もえさんも同じようなことを言っていました。線香花火をやりたいのに、自宅のベランダでも近所の公園でも禁止されていると。
結局、遊ぶところがどんどんなくなっているから、仕方なくスマホでひとり、黙々と時間をつぶしている。
いまの若者たちをスマホに追いやったのは、大人たちのせいですよ。それでいて、学校でも職場でも「コミュニケーション能力が足りない」なんて非難する。当たり前ですよ。若者たちがコミュニケーションできないような環境に追いやっているんですから。
酒やタバコといった嗜好品も、健康への悪影響ばかりが指摘されていることもあり、敬遠する若者が増えました。もちろん酒はがぶ飲みすれば急性アルコール中毒になりますし、強い酒を日常的に飲めば肝臓の病気になります。タバコだって長年吸っていればCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や脳卒中のリスクは高まります。
しかし、酒は昔から「百薬の長」といわれるように、冷えや血行を良くしてストレス解消など体にいい働きがありますし、タバコも精神を安定させ、やはりストレスを開放してくれる。適量であれば明るく健康的な生活が送れるのです。
それなのに、最近は「飲む・飲まない」「吸う・吸わない」という○か×の選択肢しかない風潮になっているから、肯定派と否定派が対立していがみ合う社会になってしまうのです。
特にタバコの排斥運動はあまりにもヒステリックだと思います。むしろ、タバコはギスギスした社会を緩和させる役目を持ち、人と人とを繋ぐ大切なコミュニケーションツールです。
かつてアイヌ民族が自ら戦争をしなかったのは、タバコを好んだからと言われています。争いごとが起きそうになったら、まずは座って相手にタバコを勧める。そして、キセルでゆっくりとタバコを吸っているうちに頭がスッキリして気分が穏やかになる。そのうち「まぁ、いいか」と怒りの感情が収まっていったのでしょう。
いま、日本はこれだけ成熟しているのに、お互いの自由を認め、他人を尊重するという意識が欠けています。だから、多様性を認めずに少数派を排除してしまおうという動きになるのです。
さとり世代の若者たちは、もしそんな抑圧された社会に不満を溜め込んで発散できないならば、もっと自由に遊んでいい。そして、常に穏やかにユーモアを持って他人と接すれば、より豊かな人生が待っていますよ。