蛯名さんのパフォーマンスはポップ、ロック、ジャズ、民族舞踊と幅広い
――HPの動画でその「Dance-ish」を拝見しました。AGTでもそうでしたが、日舞、コンテンポラリーダンスやヨガ、忍者の動きから創作ダンスまで、実に多彩な要素を取り入れていらっしゃることに驚きます。
蛯名:広く浅くなので、一つ一つ見るとたいしたことはやってません(笑)。ただそれらの“組み合わせ”によってオリジナリティを出している。色んなものを取り入れて、誰もやってないように見せている。技術よりは構成・演出で魅せたいんです。
また、色んな分野に言えると思うのですが、10人いたら2、3名のコアなファンにウケるものと、7、8人の多数にウケるものとがある。僕は後者の、より多くの人が喜ぶほうをとりたい。技術を追求すると、一般の人にはかえって伝わりにくくなることがあります。だから時には、ステレオタイプのアプローチをあえてします。
――優勝は考えていなかったということですが、決まったときのお気持ちは? 映像を見ると、発表の直前、決勝に残ったもう一人のコメディアンの方は、眉をハの字にしてソワソワと緊張されていますが、蛯名さんは冷静なお顔です。
蛯名:まず優勝は本当に光栄なことです。これまでこの番組では、パフォーミングアーティストとよばれるいわゆる身体表現者は優勝してなかったので、同業の人に希望や刺激を与えられたと思っています。またアメリカでも、歌手や役者といった他の芸能者に比べて、パフォーミングアーティストの地位は低いんですね。僕の優勝が、パフォーミングアーティストの地位向上に少しでも寄与できればうれしいなと。
とはいえ決まる前は、負けたほうがいいな、という思いが頭をよぎりました。こういうコンテストって、負けたほうが同情を買って、後の仕事で成功するケースが少なくない。正直、途中で棄権しようかと思ったくらいです。ただ、優勝したいまは、狙ってることがあります。
――それは何でしょうか? 今後の抱負をお聞かせください。
蛯名:7年後の東京オリンピックです。開会式の演出などに関わりたい!
その前に、当面は、ワンマンショーをしていろんなところを回りたいですね。もちろん日本でもやりたい。あとは演出。僕より上手いパフォーマーは日本にたくさんいるので、彼らと一緒に面白いものを作って、お客さんに楽しんでいただけたらいいですね。
【後編に続きます。後編は12月8日(日)に掲載予定です】
えびな・けんいち●1974年生まれ。1994年留学のため渡米。在学中に様々なジャンルのダンスを独学で学ぶ。大学卒業後2001年、NYハーレムのアポロシアターで開催される「アマチュアナイト」で日本人初の年間総合チャンピオンに。2007年にはアポロシアターTV版のコンテスト番組「Showtime at the Apollo」で7回連続優勝を果たし、アポロシアター史上唯一の2冠達成。同年、TED会議のステージに招かれパフォーマンスを披露。現在、NYを拠点に世界各地でパフォーマンスを行うほか、様々なダンスやシアターのカンパニー、プロジェクトにおいて舞台演出、振付、パフォーマンスを手がける。愛称は「エビケン(EBIKEN)」