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リアル脱出ゲーム考案者が苦しい時の「リアル脱出法」を語る

困難の脱出法について語る加藤隆生さん

 今、巷でリピーター続出の人気を誇る『リアル脱出ゲーム』。参加者がさまざまな謎を解き、ある場所から脱出する体験型ゲームで、その企画や謎を生みだしているのが、主催『SCRAP』代表の加藤隆生さん(39才)。今や企業からも引っ張りだこだが、最初に就職した印刷会社は1年で退職。“劣等クリエイターだった”というミュージシャン時代、リクルートの営業職を経て、ヒットメーカーとなった加藤さんに、強みの見つけ方、苦難からの“脱出法”を聞いた。

――ミュージシャン時代を“劣等クリエイター”と表現しているのは?

加藤:メジャーデビューはしたけれど曲は売れなかったんです。以前は自分がいいと思うものを作っていれば、それがいつかどこかに繋がって世界が変わっていくんじゃないかと思っていましたが、決してそんなことはなかった。きちんと売れるもの、世の中に受け入れられるものを愚直に作り続けていかないといけない。売れてナンボなんだということを学びましたね。

――ゼロから新しく始める時には勇気がいりますし、失敗を恐れたりしませんでしたか?

加藤:それはありますけど、『リアル脱出ゲーム』はリスクが非常に低かったので。初期投資に何百万円かかるというわけではなかったから。最初の頃なんて利益率が7割とか8割でした。配る物は紙きれだけだし、1年間は宣伝費をかけませんでした。1万人くらいは口コミだけで来ましたから、面白いものを作ったらこうなるんだなって思いました。

――人生でつまずいた時や苦しい時の“脱出法”は?

加藤:ぼくの場合は割と、心理学におけるトラウマの解消法を活かします。それはコミュニケーションなんですよね。つまり、自分の中でもやもやして悩んでいることを人に向かって言語化する。言葉って客観的なものだから、人に話すことで悩みが客観視されるんです。その時に、つまらない悩みだなって気づく事もあるし、もちろん大変な闇を抱える人もたくさんいますが、闇が実体化するといいますか。なぜ私が今悲しんでいるのか、なぜこんなにつらいのかがわかれば、精神的な対策がとれるんです。ぼくは社員にも割とあけすけに何でも話します。今期の税金がつらいとか、「このイベントチケットが売れてない、もう会社潰れる」とかも、すぐ言ってしまいますよ。

――人に悩みを話すのが苦手な人でも、なるべく話すということですね。

加藤:ちょっと意識して話すほうがいいですね。その人にとって大事な、特別の悩みやしんどさを話されて嫌な気持ちになる人って、意外といないですよ。もちろん話がムチャクチャ長かったら嫌ですよ。でも例えば、「ごめんなさい、今から20分時間あります? 実はぼく今すごく悩んでることがあって、聞いてもらえないですか?」って相談される行為に、嫌悪感を抱かないじゃないですか。信頼してくれてるのかなって、むしろ嬉しいですよね。思っているよりも人はみんな優しいし、他人に無関心なんですよ。他人の人生なんて、どうってことないんですから。だから話しちゃったほうがいいんですよね。それが、脱出法ですね。

――加藤さんの強みはどういうところだと思いますか?

加藤:リクルートの情報誌『Hot Pepper』の創刊メンバーだった時、飛び込み営業がつらくて、全然向いてなかったんですよ。だから、みんなが飛び込んできてくれるものを作ろう、ぼくが作ったものを「それください」ってみんなが言ってくれる商品を揃えようって思ったんです。今、みんながリアル脱出ゲームを面白いと思って来てくれるようになったってことは、うちの商品が魅力的ということだから、強みは「(企画や謎を)思いつける」ってことかもしれないですね。

――同じように進む道を迷っている学生や若い人も多いと思います。見つけるきっかけは?

加藤:もちろん経験していくうちに気づくし、気づく方法はいっぱいあると思うけど、本当に気づきたいのかなと思うこともありますね。悩んでるのが楽しいのかなこの人たちはと(笑い)。「どうせダメだし…」と言う人もいますし。本当に気づいたり見つけたりしたいなら、見つかると思います。まずは強く願うことだと思いますけどね。

――加藤さんはどのように現在に辿り着いたのでしょうか?

加藤:「強く願う」「見つける」ってことは、「動く」こととほぼ同義だと思うんです。本を読んだり、ウェブで調べるという行為で得られるものは、計画が立てられることだけ。とにかく動かないと何も近づいてこない。どんな動きであっても、動けば動くだけ近づいてきます。ぼくは自分のことを才能があるって思ったことはなく、ラッキーだったと思ってます。たまたまこの時代に生まれて、この時代にマッチするアイディアを1個思いつけただけですから。ただ、ひとつ誇れるのは、リアル脱出ゲームを思いついたその1か月後には開催していたことですね。思いついた1週間後には場所を決めて、2、3週間後にはイベントの告知をして、その数週間後には実際にやっていましたから。

 それまでにも色んなイベントをやって失敗もいっぱいしているんで、動くことには特にストレスはなく、思いついたことはすぐやっちゃう。失敗したら、ダメだったんだってわかるからプラスですよね。というふうにできることが、ひとつの才能なのかな。動くこと自体は、意識さえすれば誰にでもできることですから。

【加藤隆生(かとう・たかお)】
1974年9月14日生まれ。京都府出身。『SCRAP』代表。同志社大学心理学部卒業。京都の印刷会社を退職後、プロのバンド『ロボピッチャー』でミュージシャン活動。リクルートでの営業職を経て、2004年にフリーペーパー『SCRAP』を創刊。誌面と連動したイベント企画『リアル脱出ゲーム』が好評を博し、拡大化。2008年『SCRAP』設立。2011年の東京ドーム公演は3日間で1万2245人を動員。

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