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全国から客押し寄せ1日1400人並んだ「神様の蕎麦」を直撃

 NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』は有名無名を問わず、さまざまなプロフェッショナルに焦点を当てる。昨年11月11日の放送には、広島県の山間で蕎麦店を営む蕎麦打ち職人、高橋邦弘さん(69才)が登場した。

 店のメニューはたった1品、700円のもり蕎麦だけ。それにもかかわらず、評判が評判を呼び、われこそは蕎麦通という人から話の種にという人まで、全国から客が押し寄せる。

 でも、その店“達磨 雪花山房”に行列ができるようになったのは、はるか前からだ。

「秋の2日間、開かれる町恒例のそばまつりのときの行列はすごいんですよ。1人ざる1枚ずつの限定で、整理券制にしてもらって、私は頑張って1400枚分を打つことにしたんですが、11時には1400人並んじゃった。うちのお客様の平均は1人2枚だから1000枚分打ったら500人分だね」(高橋さん・以下「」内同)

 その日の予定枚数がとうに終わっても、店から県道まで1km以上も車が連なる。ついにはパトカーが交通整理を兼ねて、「達磨の営業は、今日はもう終わりました」と告知するありさま。

 打つほうも食べるほうも、これほどの苦労をして、美味を分かち合う蕎麦。「香り」「食感」「のどごし」を兼ね備え、蕎麦通、食通をうならせる。そんな評判の店を一代で築いた高橋さんは東京生まれの69才。

 われわれ取材班が訪れたのは平日。店は休みだった。無理を言って蕎麦打ちの実演をお願いした。

 蕎麦粉をこねながら「うちは二八そば。打つのは楽しい」と笑顔になるかと思うと、「スマホいじりながら打っちゃだめだよ」と、子供のいない高橋さんの、息子のような年の弟子に話しかけたり。

 かたまりだった蕎麦が、大きなまな板の上、巧みな麺棒さばきで薄い円形から楕円、楕円から四角へと、あっという間に形を変える。

 その蕎麦を折り畳んで、リズミカルにトントントンと切る。1回で20枚分できる。この間約25分。

 高橋さんをあらためて見て、その姿に驚いた。腰が曲がっているけれど、その曲がり方そのままで蕎麦をこね、そしてその腰は打つ台に沿っているのだから。40余年を経た蕎麦打ちの姿勢なのだ。

 この蕎麦を手早くゆでてざるに盛り付ける。白く、透き通ったプリップリの蕎麦だ。歯を押し返してくるような弾力があるが、歯切れもいい。上品な香りがふわっと広がり、ほのかな甘みがある。

 昆布としいたけと本節で取ったつゆは、風味が濃厚。薬味はわさびと辛み大根とねぎ。

「ここは水が軟水でいいし、人もいい。今も蕎麦を打つのが楽しいよ。いい出来だなって思うこともあるし、まだまだということもある。

 今のは気に入ってるけど、これで終わりじゃない。もっとおいしいものを出したい」

※女性セブン2014年1月30日号

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