近頃では、「モンスタークレーマー」という単語もすっかり一般的になったが、一方では、客に横柄な口を利いたり、落とした料理をそのまま客に出したりする「モンスター店員」と呼びたくなるような飲食店員に出会った経験を持つ人は少なくないだろう。客と店との関係は、基本的に「客が店を選ぶ」形となるが、店側が客を選ぶことは許されるのだろうか? 弁護士の竹下正己氏はこう回答している。
【質問】
食堂で食事していたところ、幼児が店内ではしゃぎホコリも立つので親に注意したのですが、すぐに店主が「彼らは親戚だから、騒いでもいいんだ。法的に店が客を選べる。イヤなら出ていきなさい」といわれ、いまだに納得できません。法律的に店側が入店拒否できるというのは本当なのですか。
【回答】
客が店を利用する関係は、両者間の契約に基づいています。契約は、その申し込みと、これに対する承諾により成立します。即ち、契約しようという双方の意思の合致が必要です。そして、申し込まれてもイヤなら承諾する義務はありません。これを「契約自由の原則」といい、現在の法制度の大原則です。
しかし、例外がたくさんあります。公共サービスの提供をする業種では、客から契約の申し込みがあった場合、事業者にその申し込みを承諾することを義務付けています。例えば鉄道では、鉄道営業法第6条で、規定料金を支払い、公序良俗に反しないなど普通の乗客の乗車を拒めません。
ガスや水道も同様に法律で、事業者に契約の承諾義務を課しています。さらにホテル・旅館でも旅館業法が満室や伝染病患者など一定の客の場合でなければ宿泊させる義務があるとしています。これらの契約承諾義務に違反すると処罰されます。
飲食店の場合、営業について規定する食品衛生法は、もっぱら店の衛生条件について規定するだけで、承諾を義務付けていません。したがって、店は気に入らない客の入店を断わることができます。
しかしながら、あなたの場合、そうはいえません。なぜなら、店は入店を認め、注文を受け、食事もだしており、すでに飲食のサービスを提供する契約が成立しているからです。そうであれば、店頭に「当店は子供が騒ぎます」などの張り紙でもなければ、店主には普通の飲食店の環境下で食事を提供する義務があります。
また、子供が騒いでホコリが立つようでは衛生状態も問題です。ましてや他の客が騒ぐのではなく、親戚の子供であれば店側で注意できるのですから、これをしない店側に債務不履行があるともいえます。店主の言葉に納得できないのは同感です。
※週刊ポスト2014年2月21日号