それ自体はまったく悪いとは思わないし、それだけ経済の問題は大きい。でも、大学進学のお手軽化や地元国公立現役入学志向の高まりが続く中で、結果的に「浪人とか、信じられないし」みたいな、少数派の浪人をさらにマイノリティ扱いするような空気も濃くなってしまった。
家計的にさほどの困難がない場合でも、現役入学を大前提とし、大学受験で「上」を目指さず、手近なところで妥協するケースが多い。無理をしないから、根性がひね曲がることもなく、素直な若者が増えたともいえる。だが、挫折を知らないから、失敗することをやたらに恐れる、弱っちい若者が増えたともいえてしまう。
そんな風潮にあって、自分は妥協しない、と決めた若者にエールを送りたいのだ。なんたって、去年の数字では大学入学者の12.4%しか浪人を経験していない。マイノリティとしての肩身の狭さは、大人たちの想像以上だろう。
しかし、浪人時代は、またとない成長の機会なのである。おおいに自問自答してほしい。みんなが嫌がる道を自分はどうして歩むのか。そうまでして学びたい何かが志望大学にあるというのか。それとも高すぎるプライドがそうさせるのか。自分はなんのために「上」を目指すのか。
もやもやとした気持ちでなかなか言葉にならないだろうけれども、迷いながら答えを出していくことで、自分自身の理解が進む。自分が何者であるかをきちんと分かっている、周囲に流されない大人へと近づいていくのだ。
筆者は、いまのこの過度な現役志向は現状肯定に見せかけた現実逃避なのではないか、と疑っている。簡単な話、みんなが頑張ることをさぼっている気がする。それでその後も済めば楽ちんでいいが、現実はそんなもんじゃない。何かを成している人は、実は、裏ですごく頑張っている。
だから頑張れ……と言いたい。浪人生にはもはや希少価値さえあるのだから、自分が選んだ道を堂々と迷いながら歩いてほしい。
そして1つ、注文をつけておきたい。今の大学生に話を聞くと、「親が現役進学にこだわるので仕方なくココに入学した」というケースが少なくない。経済問題とは別に、親の世間体で志望校をあきらめた学生がけっこういる。
ところが、これまで一番浪人率が高かったのは38.5%、1985年度の大学入学者のときなのである。2.5人に1人以上が浪人生活の経験者だった。その世代は、何を隠そう、ちょうど今の大学生や大学受験生の親世代に相当する。
親世代は、浪人が普通だった、自分が若かった時代を忘れてはいけない。浪人で苦労した学生が現役ですんなり来た学生よりも一目置かれた(こともあった)あの価値観を、前向きに思い出していただきたいのである。