インフラを整備しても、えてして想定外のことは起こるものだ。中国の情勢に詳しい拓殖大学教授の富坂聡氏が指摘する。
中国の高速道路で再び驚くべきモラルハザードが広がっている。
高速道路を使用しても料金を支払いたくないという理由で、偽装や不正カードの使用、はたまた開閉バーを破壊して強行突破する者や、料金所の職員に対する暴行に及ぶ者まで少なくないというのだ。
なかでも現在、当局(高速道路管理局、高速道路運営公司など)が最も頭を痛めているのが、開閉バーを強行突破して料金を踏み倒す悪質ドライバーが増えているという問題なのだという。
この問題は地方に行けば行くほど酷くなっているようで、昨年10月には青海省が集中取り締まりを行うことを宣言して全国的な話題を呼んだ。
青海省人民政府のサイトに残された記事によれば、10月1日から全省一斉に取締りキャンペーンを行うその理由として、〈近年、高速道路の通行料徴収において暴力的に法を破り、悪意を持って開閉バーを破壊、不法にすり抜けるといった犯罪が日増しに深刻となってきている。なかでも開閉バーを破壊するケースでは、料金所の職員に対して暴力行為に及ぶ者も増えていて、道路の集金環境は悪化の一途をたどっている〉ことを挙げている。
悪質なドライバーが料金所を突破するやり方は日本人の想像を絶する激しさで、なかには、大型のコンテナを積んだトラックが数十台も連なって料金所を猛スピードで走りぬけてゆくというやり方なのだ。轟音を響かせて次々に通り過ぎる強行突破の瞬間は、中国の多くのサイトに映像が残されている。青海省での取締りキャンペーンが行われる約1ヵ月前の9月26日、中国中央テレビ(CCTV)は、料金徴収の係員をドライバーたちが取り囲み開閉バーを強行突破するシーンの映像で報じているのだが、驚いたことにはタイトルには係員が〈圧死した〉とも書かれているのである。
料金踏み倒しの犯罪に対抗するためには、当局側も覚悟が必要となる。前出の記事によれば、キャンペーンでは交通軽鎖だけでなく特別警察の応援も頼んだという。
ではこんな驚愕の犯罪がいったいどれほどの頻度で起きているのだろうか。
広州市のケースを見ると、2010年4月14日付大洋ネット(『広州日報』)に掲載されたルポルタージュ記事によれば、〈広州広園大橋料金所では、1日200台以上の車が何らかの不正行為によって料金逃れをしている〉という。
この状況は前出の青海省人民政府のサイトにもあるように〈悪化の一途をたどり〉、現在では、〈ここの10年で最も厳しい状態になっている〉(『新京報』2013年11月15日)とされる。
同記事が11月14日付『鄭州日報』からの引用として報じたところによれば、青海省では、〈今年7月と8月の期間、1日に強引に開閉バーを突破する車両は800台を超えている〉というから驚きである。
これではキャンペーンによって一時的に取り締まることはできても、いずれ無法状態に陥ることは容易に想像される。