平は舞台以外でも大河ドラマ『武田信玄』の信虎や『信長』の加納随天など、狂気に憑(つ)かれた異形の人間を多く演じてきた。

「そういう役って好きなんです。耽美的な役とか執念に固まっている役とか。僕の志向としてはコミカルではなく怪奇的にしたい。その人間の持っている、感じられる悲しみを探ろうとします。それが見つかると、役作りが面白くなってくるんですよね。

 僕は自分では自分の言葉で内面を外に出すことができません。そこに役という仮面があると自分の内面が自由に動き出すんです。仮面があることで安心して、悪い衝動も毒々しい衝動も、悲しみも、そういうものが全てマグマのように噴き出してくるんです。僕の中に持っていたものが、この時とばかりに押し出されてくる感じはありますね。
 
 ですから、まがまがしい役をやる時って、工夫するのに苦労した記憶はないんです。そういうものが一瞬湧いて拡大していくと、面白く転がっていくというか。

 それから、DVDを僕はよく見ます。人間の毒々しさを描いた映画を観た時、刺激するものが残るのですが、自分の中で迷った時にその記憶が役に立つ。

 蜷川さんと『リア王』をやった時は稽古の時からあまりOKが出ませんでした。そんな時に自分の過去に見た映画の記憶から探して『俺はブルーノ・ガンツなんだ』と思うことにしたんです。それで舞台に出たら、上手くスゥーっと行きました。

 平幹二朗がやっていると思うと恥ずかしいことでも、他の俳優がやっていると思えば何でもできます。たとえば、ショーン・ペンならもっと派手なことをやるだろうな、とか」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)ほか。

※週刊ポスト2014年7月18日号

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