「親子ツアーでは、川遊びや森でカブト虫を捕まえるなど、お子さんと一緒に親御さんも楽しまれる方が多いですよ」と語る川村さん
そうした地域との共生の中で、工場を訪れる人に自然保護の大切さを伝える活動も行なっている。山梨県北杜市白州町にある「白州蒸溜所」「サントリー天然水白州工場」では、健全な森の重要性についての解説を盛り込んだ工場見学のほか、工場周辺の森や名水百選にも選定された尾白川で、実際に自然の中で楽しみながら学ぶ親子ツアー、また「水育」をテーマにした出張授業なども人気だ。
「みなさん自然に囲まれた工場の立地に、まず驚かれます。自然の力と最新鋭工場、2つのすごさを体験してもらう中で、私たちが安心・安全な商品を提供していることを感じていただくだけでなく、自然の大切さも実感してもらえるのは嬉しいですね。年間約9万人の方に楽しんでいただいていますが、より多くの方に見てもらいたいです」と川村さんは語る。
こうした企業が行なう水源保全や自然保護に関する活動もあるが、自治体も積極的に動いている。今年6月には、山梨県(韮崎市・南アルプス市・北杜市・早川町)、長野県(飯田市・伊那市・富士見町・大鹿村)、静岡県(静岡市・川根本町)の10市町村の申請により、「ユネスコエコパーク」(正式名称:生物圏保護区)に認定された。参加自治体のひとつ、南アルプス市 ユネスコエコパーク推進室の広瀬和弘さんはこう語る。
「スタートは2009年頃、平成の大合併などを契機に、南アルプス国立公園の関連自治体10市町村の首長が中心となって、『南アルプスをテーマにした町づくり』を考えるようになりました。その中で目指したのは、世界遺産への登録です。今回認定された生物圏保護区も、同じくユネスコ認定の指定保護区ですが、申請プロセスに違いがあるため、まずはユネスコエコパークの認定を得ました。今後も引き続き、自然環境に配慮しながら、世界遺産への登録も目指しています」
ユネスコエコパークの登録要件には、「重要な生物群集を持つ地域で、保護された中核地域を含む」「異なった管理がなされている複数の地域を含む」といった内容が含まれ、自然と人間社会の共生・多様性の共存が評価のポイントと感じられる。南アルプスユネスコエコパーク公式サイトを見ると、大きな枠組みとしての啓発活動だけでなく、各地域や自治体がそれぞれのエリアで普及活動を展開しているのも特徴的だ。
「ユネスコエコパークとしての自覚や誇りを持ち、信頼される地域として、自然保護に努めたり、観光客の方をおもてなししたり、横断的に取り組むこともありますが、各エリアの個性も大切に考えています。そうした多様性に富んだ自然を通じて、この南アルプスという地域が安心・安全なエリアという信頼が得られれば、観光だけじゃなく農作物のブランド力向上など、地域全体の発展や5年後・10年後の町づくりへと、繋がって行くのではないでしょうか」(広瀬さん)
豊かで健全な自然環境と、農業や工場などの産業・生活エリアといった人為的なものとが、共に育み、地域としてのブランド価値を生み出す。そうして生まれた利益がまた、地域や自然保全へと還元・循環される――南アルプスの自然は豊かな森や山・水源などを通じて、“恵みを分け合う”という基本的で、大切なことを教えてくれる土地のひとつといえそうだ。