時代劇は子ども向け作品にも多くの影響を与えている。「仮面ライダーシリーズ」では擬斗を殺陣(たて)師集団の大野剣友会が担当したことでも明らかなように、チャンバラ時代劇の「引用」がみられた。平成17年から放送された『仮面ライダー響鬼(ひびき)』には、戦う場面以外にも時代劇の雰囲気がみられた理由について、『時代考証学ことはじめ』などの著書がある編集プロダクション三猿舎代表・安田清人氏が解説する。
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平成12年(2000)から「平成仮面ライダー」と呼ばれる新シリーズが始まって5年、ライダーシリーズの人気は安定していたが、ややパターン化した物語やキャラクターの方向性を打破するべく、平成17年1月から翌18年1月まで放送された『仮面ライダー響鬼』では、「完全新生」を掲げた物語が作られた。
まず主人公の仮面ライダーは「鬼」だという設定。精神と肉体を鍛錬することで「鬼」となった存在だ。彼らが戦う相手も、日本に古くから伝わる「魔化魍(まかもう)」と呼ばれる怪物たち。さらに、物語の背景には陰陽道や修験道といった日本古来の習俗に関係する設定が「小道具」として登場し、和風&ミステリアスな雰囲気を物語に加えている。
こうした設定になった裏には複雑な事情があるらしい。ドラマの企画段階から文芸スタッフとして基本コンセプト作りに関わり、最終的にはスタート前にプロデューサーから「解雇」されたというライター&エディターの片岡力氏によれば、「響鬼」は長く続いた仮面ライダーの世界からの脱却、すなわち「脱仮面ライダー路線」を模索する中から生まれた存在で、片岡氏は『変身忍者 嵐』のリメイクを提唱したという。
しかし、同時期に放送予定の子ども向け特撮番組が、忍者をモチーフにするとの情報が入ったため、競合をさけて呪術や魔法が登場する作品に変更。すると今度はスーパー戦隊もので西洋魔法を取り上げることが判明。しかたなく和風の作品へと回帰したという(片岡力『「仮面ライダー響鬼」の事情 ドキュメント ヒーローはどう〈設定〉されたのか』 五月書房)。
しかし、こうした和風の味付けはあくまでもドラマの趣向の一つであり、物語の本質的な部分とはあまり関係ない。正義の味方が鬼であるという設定も、鬼ガ島に鬼退治に行った桃太郎自身がじつは鬼だった、という「逆-桃太郎」説を後付けのように援用していたが、和のテイストは、あくまでも道具立て。
それでも時代劇によって醸成された「現代人が和風だと感じる世界観」は、その後も折に触れて特撮ドラマの世界に顔をのぞかせる。仮面ライダーと和の融合も、「響鬼」だけでは終わらなかった。
※週刊ポスト2014年12月19日号