他にもこんな事例がある。アメリカの製薬会社がカナダで新薬の特許を申請したところ、臨床試験が不十分として特許を与えなかった。米製薬会社はカナダの裁判所に持ち込んだが却下されたので、ICSIDに提訴。カナダ政府に対する1億ドルもの賠償請求が認められたのである。
これが何を意味するのかというと、国家主権の喪失に他ならない。その国の法律よりも、ICSIDの判決が優先されるのだから、主権が失われたも同然である。
もし米企業が提供する超高額医療まで健康保険を適用させることになれば、ただでさえ赤字の日本の健康保険制度は、早晩、破綻する。しかし、保険適用を拒否すれば、ICSIDに提訴され、巨額の賠償金を支払わされる可能性がある。これを避けるために、日本政府としては法律を改正して、「混合診療」を解禁することになろう。
混合診療とは、患者の意思に応じて、保険が適用される通常の保険診療に、保険外診療(自由診療)を併用する制度である。これの何が問題なのかというと、今まで患者が全額負担していた高額な自由診療にも部分的に健康保険が適用されるようになるので、公的負担が増大する。
さらに、病院や製薬会社は、より儲けの大きい保険外診療に力を入れるようになり、従来なら保険適用されていた新しい治療法や新薬が、保険外のまま据え置かれ、公的な健康保険制度が形骸化しかねない。要するに、アメリカのような医療制度になるのだ。
そうなれば、国民は高額な医療費を支払うために、民間の医療保険に加入するしかなくなる。アメリカの保険会社が押し寄せてくるのだ。つまり、これこそがアメリカの真の狙いである。TPPによって、日本の皆保険制度がアメリカに食いつぶされることになろう。
※SAPIO2015年3月号