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インフレと低金利両立謳うアベクロノミクス 割食うのは国民

 安倍晋三首相と黒田東彦・日銀総裁のコンビは、国債暴落を恐れて国の巨額の借金問題をソフトランディングさせようとしてきた。

 黒田日銀は2%のインフレ目標を掲げて「異次元の金融緩和」を進めた。本来、物価が2%上がれば金利も2%上昇する。そのままでは巨額の借金を抱える国家財政はゼロ金利の時代より利払いが増える。もし2%インフレが35年続けば物価は2倍だ。現在1100兆円の国の借金返済額は2200兆円になる。これでは政府はうれしくない。

 そこでアベクロコンビは日銀が国債を大量に買い入れることで国債利回り(長期金利)を低く抑えた。物価は上げるが金利は上げずに国の利払いを少ないままにしたいのだ。これなら35年後に物価が2倍になっても返済額はほとんど変わらないから、借金は実質的に半分に減る。それが「インフレと低金利の両立」というアベクロノミクスの詐術である。

 割を食うのは国民であることを、政府・日銀は説明していない。このやり方は「資産を持つ者」から「借金を抱える者」へ金融資産を少しずつ移動させる仕組みである。

 例えば100万円の普通預金を持っているとする。物価上昇が2%なら、本来の金融政策であれば普通預金にも2%の利子がつき、1年後には102万円になる。物価が上がっても資産も増えるから損はしない。

 しかしインフレ・低金利で利子がほぼゼロ(現在のメガバンク3行の普通預金金利は0.02%)に抑えられていれば、利子は200円にしかならない。これだと預金(による購買力)は実質的に減ってしまう。逆に“借金組”は得する。相沢幸悦・埼玉学園大学教授が語る。

「国民の預金に金利がつかないという状態は、物価上昇分だけ少しずつ預金が目減りしているのと同じです。本来もらえるはずの利子は、それを払うはずの借金をしている者の利益になる。具体的にいえば国民が知らないうちに国債の利払いに回されている構図です」

 1650兆円の個人金融資産をこっそり国の借金の穴埋めに回していくカラクリといっていい。

 安倍首相は「過去15年で最高の賃上げが実現した」と胸を張り、これから一般庶民にも好景気が波及していくかのように喧伝しているが、物価上昇を加味したサラリーマンの実質賃金は安倍政権発足直後にマイナスに転落して以来19か月連続で下がり、景気回復どころか消費が落ち込んで経済成長率はマイナスになった。

 アベノミクスは国民の所得を増やすのではなく、国民の金融資産を使って国と企業の借金を減らしていく仕組みだから景気循環が逆回転を始めるのは当然だった。

※週刊ポスト2015年3月20日号

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