第一次世界大戦の塹壕戦が長引き、一瞬で手足を吹き飛ばされる砲撃や、その轟音・振動の恐怖にさらされ続けた結果、「シェルショック」(PTSD)に陥る兵士が続出した(彼らの復員後の症状はインターネットで簡単に見ることができる)。
また、第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦では、継続的な戦闘状態が60昼夜続くと、兵士の98%が精神的戦闘犠牲者になることも分かったし、スターリングラードの激戦に参加したソ連軍の復員兵士の多くは、40歳前後で亡くなっているそうだ。
こうした事実は、激戦という極限状態が人間に与える精神的悪影響を如実に物語っている。野生脳が最大限に活動し、訓練によって「殺人機械」と化したとしても、その状態が長期化すれば、人間は、ごく一部の例外を除いて、精神的に耐えられなくなるに違いない。
現代に生きる人々のほとんどは「正戦論」の立場正義や平和を護るためにやむを得ない場合にのみ武力行使を容認するという立場に立つだろう。それゆえ、当分は戦争・紛争・武力衝突はなくなりそうにない。
だが、野生脳が最大限に活動し、戦闘訓練を積んだ人々が闘わざるを得ないのは、その人たちの責任でない場合が多い。ほとんどの人は、平時は望んでいないのに、いったん戦争が始まると、否応なく闘わざるを得なくなる。これこそ、人類史上最大の悲劇であろう。
※注1/アメリカの暴力防止専門家。『暴力から逃れるための15章』(新潮社)など。
※注2/イスラエルの歴史学者、軍事学者。『戦争文化論(上・下)』(原書房)など。
※注3/元米陸軍中佐。『戦争における「人殺し」の心理学』(ちくま学芸文庫)、『「戦争」の心理学』(共著、二見書房)など。
※SAPIO2015年4月号