客の平均年齢は37歳。95%がネット経由でやってくる。工事は、面積が68平米、費用は886万円が平均的という。決して安い買い物とは言えない。ところが山下社長は奇妙なことを言った。
「最初はお客さまに、どんな家が欲しいですか、という質問をいたしません」
では何を聞くのですか?
「初恋のこと、初めて買ったCD、思い出の旅……その人が本当に求めている暮らし方や価値観を確認するために、本質的な質問を重ねていきます。長い時には3時間、4時間と、カウンセリングに近いですかね」と笑った。
「家って奥深くて一生に何度もできない買い物ですから。暮らす人の思いを形にするために、そうしたディープデータを活用し、嗜好にあった家作りをお手伝いします」
大量に作って一気に販売する新築マンションの間取りは「8割の人が嫌だと言わない中庸ライン」を狙っている。「一方、私たちが売っているのは、たった一人の人が良いという空間です」と山下社長。
買い手の思いに応える家。考えてみれば、まだ十分に供給されているとは言えない。わかりにくい不動産業界の構造や物件情報もインターネットによって透明化してきた。いよいよ家電や車のように、住宅も売り手から買い手に選択権が移りつつあるのではないか。古着もオシャレという感覚が定着している30~40代。好みの間取りやデザインが選択できる中古住宅へという流れも、自然なのだろう。
かつて、「ウサギ小屋」とまで揶揄された日本の住宅。その割に「一生で一番高い買い物」として君臨してきた特別な商品。あまりに高く見えていたそのハードルが、ブランドファッションと同程度に、自分のこだわりを表現するアイテムになる日も、すぐそこまで来ているのかもしれない。
※SAPIO2015年5月号