国際情報

日本がAIIBに参加しなくて正解だったと言える日はきっと来る

 勝ち馬に乗れ、とばかりに創設メンバーは、57カ国にまで膨れあがった。中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB) に駆け込み参加した先進国は、いかなる展望を描いているのか。

 年間7000億ドルとも言われるアジアのインフラ需要の受注か。もしくは中国のパートナーとなることで米国抜きの世界秩序の一員になれるとでもいうのか。

 だが、そうした甘い幻想は、即座に打ち崩されるに違いない。なにせ一方の中国は、国内問題にしか目が向いていないのだから。

「政経一致」という言葉がある。中国で働く海外ビジネスマンたちが、まずぶつかる大原則だ。彼の国では政治が動けば、昨日までの商慣習が一変する。いや、経済だけでなく外交も国防もすべては政治、つまりは中国共産党のさじ加減一つで決まる。

 絶大なる権力を握る党だが、それも13億の人民の信任あってのものだ。国民の不満の発露には常に目を光らせている。昨今の腐敗撲滅運動も、格差拡大に不平を募らせる民衆へのデモンストレーションにちがいない。過去には、ガス抜きのために反日デモを煽動することもあった。

 すべては国内問題の解決のためそうした観点でAIIB創設を眺めると何が見えてくるか。中国は、経済成長の鈍化を隠せなくなってきている。昨年の成長率は7.4%。24年ぶりの低い値だ。今年に入っても、いっこうに改善しない。中国が世界同時恐慌からいち早く脱出できたのは、国内インフラ整備、住宅建設などの景気刺激策を積極的に打ち出したからといわれている。

 しかし現在、その揺り戻しが起きている。建設需要は飽和しつつあり、完成したものの、人が集まらない「鬼城」(ゴーストタウン)もそこかしこに出現している。そこでAIIBの出番である。

 海外のインフラ整備を中国主導で進められれば、鉄鋼、セメントなど過剰な産業物資を輸出できるし、労働者にも雇用を回せる。日米抜きの銀行創設は、国民に自信を植え付けることもできよう。中国の思惑が透けて見える、そんな内向きの対外プロジェクトが成功するはずがない。

 実は中国はAIIB創設前から、ラオスやミャンマーに経済特区をつくるなど、中国資本による大規模投資を行っている。だが環境破壊や犯罪増加への現地住民の猛反発もあって、開発は停滞している。

 AIIB設立にあたって中国政府は「(世界銀行やアジア開発銀行が)官僚主義的な面倒な点がある」と発言した。だが、借り入れ国の人権問題や環境悪化などに厳しい審査基準を設けているのは、地域発展を円滑に進めるために必須なのである。

 欧州主要国が続々と参加を決めても、あわてる必要はない。中国人の中国人による中国人のための銀行は早晩、馬脚を現す。日本がAIIBに参加しなくて正解だったと言える日がきっと訪れるだろう。

※SAPIO2015年6月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

違法薬物を所持したとして職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(Instagramより)
《美女・ホテル・覚せい剤…》元レーサム会長は地元では「ヤンチャ少年」と有名 キャバ嬢・セクシー女優にもアテンダーから声がかかり…お手当「100万円超」証言
NEWSポストセブン
中居の女性トラブルで窮地に追いやられているフジテレビ(右・時事通信フォト)
【独占直撃】元フジテレビアナAさんが中居正広氏側の“反論”に胸中告白「これまで聞いていた内容と違うので困惑しています…」
NEWSポストセブン
「全国赤十字大会」に出席された雅子さま(2025年5月13日、撮影/JMPA)
《愛子さまも職員として会場入り》皇后雅子さま、「全国赤十字大会」に“定番コーデ“でご出席 知性と上品さを感じさせる「ネイビー×白」のバイカラーファッション
NEWSポストセブン
不倫報道の渦中、2人は
《憔悴の永野芽郁と夜の日比谷でニアミス》不倫騒動の田中圭が舞台終了後に直行した意外な帰宅先は
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(Instagramより)
〈シ◯ブ中なわけねいだろwww〉レースクイーンにグラビア…レーサム元会長と覚醒剤で逮捕された美女共犯者・奥本美穂容疑者(32)の“輝かしい経歴”と“スピリチュアルなSNS”
NEWSポストセブン
富山県アパートで「メンズエステ」と称し、客に性的なサービスを提供したとして、富山大学の准教授・滝谷弘容疑者(49)らが逮捕(HPより)
《現役女子大生も在籍か》富山大・准教授が逮捕 月1000万円売り上げる“裏オプあり”の違法メンエス 18歳セラピストも…〈95%以上が地元の女性〉が売り
NEWSポストセブン
永野芽郁のCMについに“降板ドミノ”
《永野芽郁はゲッソリ》ついに始まった“CM降板ドミノ” ラジオ収録はスタッフが“厳戒態勢”も、懸念される「本人の憔悴」【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
スタッフの対応に批判が殺到する事態に(Xより)
《“シュシュ女”ネット上の誹謗中傷は名誉毀損に》K-POPフェスで韓流ファンの怒りをかった女性スタッフに同情の声…運営会社は「勤務態度に不適切な点があった」
NEWSポストセブン
現行犯逮捕された戸田容疑者と、血痕が残っていた犯行直後の現場(時事通信社/読者提供)
《動機は教育虐待》「3階建ての立派な豪邸にアパート経営も…」戸田佳孝容疑者(43)の“裕福な家庭環境”【東大前駅・無差別切りつけ】
NEWSポストセブン
“激太り”していた水原一平被告(AFLO/backgrid)
《またしても出頭延期》水原一平被告、気になる“妻の居場所”  昨年8月には“まさかのツーショット”も…「子どもを持ち、小さな式を挙げたい」吐露していた思い
NEWSポストセブン
露出を増やしつつある沢尻エリカ(時事通信フォト)
《過激な作品において魅力的な存在》沢尻エリカ、“半裸写真”公開で見えた映像作品復帰への道筋
週刊ポスト
憔悴した様子の永野芽郁
《憔悴の近影》永野芽郁、頬がこけ、目元を腫らして…移動時には“厳戒態勢”「事務所車までダッシュ」【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン