仮にそれがスズキ流「親子承継」の最善の策であったとしても、5年もかかれば俊宏氏は61歳。冒頭の社長の平均年齢に照らせば決して若返りとはいえない。もっと早く息子にバトンタッチできる機会はあったはずだが、まさに鈴木氏が引き際のタイミングを逸してきたことが「スズキ最大の経営リスク」(前出アナリスト)と言われる所以だ。
「スズキの首脳人事は不運の連続でした。戸田昌男氏は任期中に病気に倒れ、次期社長の大本命と見られていた鈴木氏の娘婿、小野浩孝氏(当時は専務執行役員)は2007年に52歳の若さで急逝。次に指名した津田絋社長も健康上の理由で退任するなど、鈴木氏が描いていた『俊宏氏に繋ぐまでのシナリオ』がことごとく狂ってしまったのです。
そうこうしているうちにリーマンショックという非常事態に見舞われて自分が再登板せざるを得なくなった。結果的に鈴木氏が『まだ雑巾は絞れる』と、工場の電気を節電したり、休日に自動販売機の電源を切るなど“ケチケチ経営”を積み重ねてきたからこそ、ホンダをも凌ぐ営業利益率を達成できる会社になったのですが」(福田氏)
しかし、鈴木氏が常々謙遜する「中小企業」の枠組みでは到底収まらない事業規模に成長した今、高齢の経営者だけに依存する事業リスクは分散させる必要があるだろう。
「軽自動車規格の緩和やインドをはじめ海外販売のさらなる拡充、VW(フォルクスワーゲン)との資本提携解消訴訟など、まだ鈴木氏の持つさまざまな人脈やリーダーシップに頼らなければならない場面は多い。
それでも、俊宏氏や各担当役員への権限移譲を素早く進め、『カリスマ社長がいなくなればスズキの業績は悪化する』という不安を払拭していかなければ、グローバル競争も激しい自動車業界でスズキの企業価値は保てない」(経済誌記者)
今度こそ、鈴木氏は花道を飾るトップ交代を果たすことができるのか。