今年2月、北海道の札幌市で飲食店の看板が落下し、歩道を歩いていた女性が大怪我を負う事故があった。これを受け国土交通省は全国の都道府県を通して建物の緊急調査を行なったが、もしビルの看板が落下して怪我を負った場合、誰が責任を取るべきなのか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
強風の日、通りを歩いていたらビルの看板の破片が落下。文句を言おうと看板の店に行くと、すでに他の店に変わっていて、前の店主とは連絡が取れないとのこと。そこで腐食した看板を放置しているビルのオーナーに連絡を入れましたが、知らぬ存ぜぬの一点張り。この場合、どう対処すればよいですか。
【回答】
民法第717条1項で、建物など土地の工作物の設置・保存の瑕疵(かし)による事故は、その工作物の占有者に第一次的責任があり、占有者が損害発生防止に必要な注意を怠らなかったときに、所有者に二次的な賠償責任があるとされています。瑕疵とは、通常有すべき安全性がないことをいいます。
建物に設置された看板も土地の工作物ですから、看板落下の原因が、その設置や保存の瑕疵だった場合、被害者はまず、建物の占有者に―占有者が注意を怠らなかった場合にのみ、看板の所有者に賠償請求ができる関係になります。
看板が物理的に取り外しできない建物の構成部分の場合、その所有者はビルオーナーで、看板を使うテナントは占有者です。テナントに不注意があれば、第一次的責任を負いますが、オーナーもテナントを通して賃貸人として間接的に看板を占有しています。
工作物の占有者に第一次的責任があるのは工作物を事実上支配し、その瑕疵を修補して損害の発生を防止できるからです。そこで、間接占有者でも修繕義務を負うなど建物を管理支配できる場合は、間接占有者も工作物の設置・保存の瑕疵について第一次的責任を負います。
看板が建物から取り外しできる場合、看板自体は設置したテナントの所有ですが、瑕疵が看板と建物外壁との接合部にあれば、建物本体の瑕疵でもあり、前記同様に建物本体を修補し、管理支配するオーナーも間接占有者として責任を負います。
建物と無関係でオーナーが支配できない部分の瑕疵が原因の場合も、テナントが夜逃げして相当期間経過して建物と一体になった看板の所有と占有を放棄した状態になっていれば、落下の危険があるなどの具体的な瑕疵については、ビルオーナーがその占有者として管理すべきで、責任を問うことができると思います。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年6月12日号