ライフ

有田焼の柿右衛門窯 当代窯主(47歳)と職人35人が技術継承

新作の構図について打ち合わせする当代酒井田柿右衛門

 佐賀・有田の柿右衛門窯は江戸時代初期に創業した色絵磁器の名門。人間国宝の父が亡くなり、歴史ある工房で昨年2月より窯主を務めるのは、当代(十五代)酒井田柿右衛門(47)だ。自らが図案を作成した花瓶を眺めながら語る。

「パッと見た時の、白(素地)と赤(色)のバランス、形と絵のバランス、その調和がとれてこそ柿右衛門の焼き物といえます」

 日本で初の磁器・有田焼が佐賀で誕生したのは1616年頃。初代酒井田柿右衛門が色絵付に成功したのは約30年後のことだ。その後、乳白色の素地に十分な余白を残しながら控えめに色絵を描く「柿右衛門様式」が1670年頃に確立されると、ヨーロッパなどに輸出されて各国の王侯貴族が賞賛し、室内装飾に多く用いられた。

 その美意識と技術は、当代と総勢35人の熟練した職人による、完全分業制で受け継がれている。

「成形、絵付、焼成の各工程に30年以上のキャリアを持つ職人が何人もいます。だからこそ、高品質の焼き物を作り続けられます」(当代柿右衛門)

 柿右衛門窯の工房は、「細工場」「絵書座」「仕上場」など、作業工程によって部屋が分かれている。器の成形を行なうのが細工場。ここでは、15人の職人が制作にあたっている。材料となる土をこね、土が手に馴染んだところで、ロクロや型を用いて「成形」する。その後、乾燥させてから「削り」作業で素地の厚みや形を調整。最後に布や筆を用いて丁寧に「水拭き」して、傷や汚れをチェックしながら表面を滑らかに仕上げていく。

 細工場を出た器は、「下絵」を描く前におよそ10時間焼成される。これは「素焼き」と呼ばれ、下絵を描きやすくするうえ、その後の「本焼き」で歪みやひびを減らすことができる。

 素焼きした白い素地は絵書座に移されて、呉須と呼ばれる焼成後に藍色になる絵具で下絵が施される。細い筆で線描き職人が図案の輪郭部を描き、濃み職人が描かれた輪郭線に基づいて濃筆とよばれる太い筆で塗る。

 下絵が終わると仕上場で素地の表面にガラス質の皮膜を作るための釉薬をかけて、乾燥させた後「本焼き」となる。窯出し後は再び絵書座で「上絵」を施し、赤絵窯で焼成。3か月の時間を費やして作品が完成する。

◆十五代酒井田柿右衛門:1968年佐賀県有田町生まれ。旧名・浩。伊万里高校卒業後、多摩美術大絵画学科へ進む。大学中退後、1994年より十四代に師事。2013年、重要無形文化財保持団体(柿右衛門製陶技術保存会)会長に就任。同2月、十五代を襲名する。

撮影■三好和義

※週刊ポスト2015年9月11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
立花孝志容疑者(左)と斎藤元彦・兵庫県知事(写真/共同通信社)
【N党党首・立花孝志容疑者が逮捕】斎藤元彦・兵庫県知事“2馬力選挙”の責任の行方は? PR会社は嫌疑不十分で不起訴 「県議会が追及に動くのは難しい」の見方も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の打ち上げに参加したベッキー
《ザックリ背面ジッパーつきドレス着用》ベッキー、大河ドラマの打ち上げに際立つ服装で参加して関係者と話し込む「充実した日々」
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
一般女性との不倫が報じられた中村芝翫
《芝翫と愛人の半同棲にモヤモヤ》中村橋之助、婚約発表のウラで周囲に相談していた「父の不倫状況」…関係者が明かした「現在」とは
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《噂のパートナーNiki》この1年で変化していた山本由伸との“関係性”「今年は球場で彼女の姿を見なかった」プライバシー警戒を強めるきっかけになった出来事
NEWSポストセブン
デコピンを抱えて試合を観戦する真美子さん(時事通信フォト)
《真美子さんが“晴れ舞台”に選んだハイブラワンピ》大谷翔平、MVP受賞を見届けた“TPOわきまえファッション”【デコピンコーデが話題】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン