売店だった場所がお洒落な喫煙スペースに(日活・調布撮影所)


 映画業界とたばこは切っても切れない関係にある。もちろん、監督をはじめ、出演俳優や撮影スタッフがたくさん集う撮影所は、コミュニケーションの場として喫煙所の存在が大きい。

 それだけではない。映画ファンの記憶に刻まれた名作には、たばこが重要なシーンの演出に使われたケースも多い。三池監督は、そうした映画業界の歴史や文化を残した分煙環境づくりに頭を悩ませたのである。

 実際に所内の喫煙環境整備を手掛けた日活・映像事業部門撮影所グループの佐藤龍朗氏(施設管理チームエキスパート)もいう。

「昔の日活アクションシリーズなどは、暗闇でたばこに火をつけることで顔が浮かび上がる演出があったり、エンディングで主人公がたばこを揉み消して颯爽と去っていくシーンが印象的だったりと、たばこは映画の『小道具』として欠かせないものでした。タイミングやきっかけ、間を持たせる効果もあったのです」

 いまはテレビドラマを中心に喫煙シーンを自粛する作品も増えたが、映画の世界は文化的なアイテムとしても、たばこを用いた表現の自由度を確保している。それだけ喫煙者に寛容な業界といえる。だが、撮影所内では非喫煙者への配慮も決して忘れてはいない。

「最近は若者や女性でたばこを吸わない人も多いので、壁で囲った喫煙スペースでも、人の出入りが激しい場所に煙が行かないよう、排気ダクトで風の向きを変えるなどしています。

 撮影所は様々なセットや配線なども多く、施設の管理上、火の取り扱いにはさらなる注意喚起が必要でした。そんな中、三池監督のアイデアも取り入れた喫煙スペースを設けることで、喫煙者・非喫煙者双方が気持ちのいい空間をつくることができましたし、利用者全員のマナー向上に繋がるものと期待しています」(前出・佐藤氏)

 三池監督の提案は日活のみならず、東宝など別の映画会社にも広がり、自主的な分煙整備の流れは業界全体に波及しているという。

 日活・調布撮影所内の屋外11か所に設けられた喫煙スペース。その中でも三池監督が特にお気に入りの場所には、こんなコピーが躍っていた。

〈極道もお化けも怪獣も。ここではマナーを守ります〉

 自身がメガホンをとる『極道大戦争』の撮影中に考案されたというメッセージだ。三池監督が分煙対策で魅せた演出は、たばこ議論に象徴される“マイノリティー排除”の社会風潮にも一石を投じたのではないか。

※編集部より/日活の調布撮影所内は一般の見学者受付は行っておりません。

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