【書評】『国道者』佐藤健太郎著/新潮社/1300円+税
鉄道マニアがいることは分かる。車や飛行機のマニアも理解出来る。しかし、国道のマニアがいるとは知らなかった。
はじめ「国道者」という書名を見た時、何のことか分からなかった。重要な道路を指す国道のこと。著者は、全国の国道を走り、その実態を調べるのが好きな国道マニアなのだという。
もともとドライブ好きで、それが昂じて国道好きになった。18年間には北は稚内から南は石垣島まで約32万キロを走った。その著者が全国の風変りな国道を紹介してゆく。言わば国道珍景グラフィティ。
青森県の津軽半島の突端、龍飛崎には階段国道という何やら形容矛盾の国道がある。自動車道路なのに階段になっている。地形上、どうしようもなかったのだろうが、車の通れない国道。なんとも珍妙。その珍しさが人気になり、ここはいまや観光地なのだという。
この階段国道にはおまけが付く。階段を下ると、道は民家のあいだの狭い路地に入る。名づけて路地国道。嘘だろうと思うが、ちゃんと写真が載っている。
これは県道だが、広島県の呉市には「日本一短い県道」と誇らし気に謳っている道路がある。長さわずか10.5メートル。
これが日本一とされていたのだが、著者が調べたところ、長野県の上田市にはわずか7メートルの県道(横断歩道が県道!)があることが分かった。それを調べにわざわざ上田まで出かけるのだから脱帽。
国道で最短なのは神戸市にある国道174号。わずか187.1メートル。なぜこんな短い道が国道なのか。道路法では、重要な港や空港と、主要道路を結ぶ道が国道とされる。174号は神戸港とそのすぐ近くの国道2号とを結んでいるため国道になった。
酷道という言葉があるそうだ。国道なのに山の中や辺鄙なところにあるため、きちんと整備されていない道のこと。鉄道マニアのあいだで人気のある秘境駅のようなものだろう。 大阪と奈良を結ぶ国道308号の途中にある暗峠がまさにそれで、道幅が狭いため「道路狭小につき通り抜けご遠慮願います」という看板まであるという。国道なのに。
驚きの連続。ユーモアにあふれている。何かと世知辛い世の中。こんなヘンな国道が日本各地にあるのは面白いことではないかと、のんきな気分になってくる。
文■川本三郎
※SAPIO2016年3月号