『50代からの~』はピンク色のTシャツ姿で片手にサイリウムをもつ、よくあるアイドルファンの姿をした大森さんの写真が表紙になっている。『中年がアイドルオタクでなぜ悪い』も中年男性が表紙だ。イラストレーターの師岡とおるさんによるはっぴと鉢巻きを身につけた躍動感ある男性、こちらもよくあるアイドルファンの姿をしている。
『中年が~』という直球なタイトルは、アイドルにあまり関心がない担当編集者の岩尾雅彦さんが、アイドルオタクである著者に、「そろそろアイドルを卒業してくれませんか」と冗談まじりに言ったとき返ってきた言葉から生まれた。そこまで言うならと岩尾さんは、アイドルとそのファンを遠まきにみている自分たちのような人へ向けて、それらの魅力を言葉で伝える本を作りましょうと企画をすすめた。
「2010年代になり、アイドルはブームから大人の文化として定着したと思います。アイドル現場には60代、70代の人も少なくないそうです。プロレス記者だった当時から小島さんは、みずからが現場で感じた熱を言葉で伝えてきて、いまはアイドルの現場の熱を言葉で伝えています。あがってくる小島さんの原稿を読むたびに、プロレスファンとして熱を発する一人だったかつての自分の、久しく忘れていた感覚を取り戻したくなりました。
普段は人とコミュニケーションを取るのが苦手な人でも、アイドルを応援することをきっかけにファン同士で積極的に会話を交わすようになり、生きがいが見つかったという人も多い。少し後ろめたい思いを残しながらアイドルを応援し続けるというのが、大人の“たしなみ”ではないでしょうか。現代はストレス社会なので、アイドルが元気になるきっかけになるのではないか、と書籍編集をしながら思うようになりました」(岩尾さん)
かつてアイドルのファンといえば、そのアイドルと同年代の少年たち、もしくは女児も含めた子どもたちだった。しかし、2010年の第2回AKB総選挙が社会現象となったころから様子が変わり始めた。大人の男性、おじさんたちがアイドルを夢中になって論じ、応援するようになったのだ。それから数年経ち、現在では、写真がほとんど載っていない、おじさん向けのアイドル本が相次いで登場するほど成熟したジャンルとなった。
男性学が専門で『40男はなぜ嫌われるのか』などの著書がある武蔵大学の田中俊之氏は、おじさんによる、おじさんのためのアイドル本出版が相次いでいることについて「とかく否定的なイメージがつきまといがちな趣味なので、書籍という形になるのは肯定的なアピールになりますね。男性の趣味が多彩になるという意味でも、よい傾向ではないでしょうか」と歓迎している。
「純粋にアイドルを応援することには、つらい現実を忘れる非現実、フィクションとして機能している面があるのでしょう。中年男性にとって最大の問題は趣味がないこと、仕事以外の人とのつながりがないことだったので、それを解消できるのはよいことだと思います。単に応援するだけではなく、心の中を掘り下げるかたちで、どうしておじさんである自分がアイドルのファンになるのかをじっくりと省みてみる方向に向かってもらえたらさらにいいなと思います」
リストラや鬱、老後の不安など、中年男性をめぐるニュースに明るいものは少ない。彼らの生活を救うひとつとして、アイドルのファンという趣味の存在感が増しているようだ。