そして卒業式の1週間前、シヅ子さんは生まれて初めての顔パックをし始めた。そのかいあって、当日は化粧ノリ抜群。髪の毛には紫色のスプレーをしてもらって、羽織袴で出席した。
「勉強は嫌とは思わんかった。難しかねとは思いよったけど、わかってきたら面白いっていうのもあった。学べるってことは幸せだし、パワーにもなるんだから」
そう話すシヅ子さんは、「good」と書いてある英語のレポート用紙を、何度も手のひらで撫でていた。
シヅ子さんは、この4月から佐賀・唐津にある服飾・家政の専門学校の新入生となった。車と電車を乗り継いで片道2時間弱。「今の洋裁の教え方でいいのか」「もっと最新の方法があるのではないか」という思いを胸に、その門を叩いたという。
「覚悟があったらどんなことでもできると思わんと。70才だからダメって、それは自分で決めとるだけやろ。やろうと思えばできる」
目をキラキラさせるというのはこういうことをいうのか。
そういえば私の夢って何だったっけ? いつかまた夢を追いかける日がくるのか? いや、そもそも追いかけたい夢が出てくるのか? でも…夢見るって、いいなぁ…。どこまでも清々しいシヅ子さんの声を聞きながら、そんなことを思った。
※女性セブン2016年5月12・19日号