外資系ラグジュアリーホテルに代表されるような、都市型高級ホテルで見られる、背筋が伸びるような隙のないサービスの追求は、結果としてホテルを均一化させていく。どこへ行っても同じように完璧だ。「サービスマニュアル」という言葉があるように、サービスは利益を追求する手段という側面もあるのだろう。
ところが、今回出向いた施設で共通していたのは“自主性”や“柔軟性”だ。少なくとも接したスタッフ全員が、実に楽しげにゲストへ説明し案内する。つい余計なことまで喋ってしまい失礼しました、と詫びられるシーンも何度かあった。当方が取材という立場を知っているだろうから接客は用心深くなるのが普通だが、こちらが聞く前に裏話まで飛び出てくる。とにかくゲストと接するのが嬉しくて仕方ないといった様子。
昨今「おもてなし」が一人歩きし様々な手法で商品化されているが、おもてなしの原点は心の追求だ。スタッフのパーソナリティを鑑みることなく、一定のルールに縛られるサービスのマニュアルではない。お金に換算できない、咄嗟に出る行動や言葉におもてなしのエッセンスはある。
もちろんサービスには外せない基本はありマニュアルも重要。しかし、ゲストが斬新に感じる土着のホスピタリティは、現地に長い時間身を置くことによって生み出される。事前にマニュアルは用意できない。リゾート地への展開という条件もあるのだろうが、結果として星野リゾートという有名ブランドにして、それぞれの施設ならではの個性や、ゲストとの絶妙な距離感が生まれている。
星野リゾートは生産性を重視しているという話を聞いたことがある。経営には必須なことかもしれないが、生産性を合理性の追求としたら、軽井沢の滞在で見たことはあまりに乖離している。もちろん施設や設備、スタイル、料金、ゲストそれぞれ求めるものやコスト意識も違う。中には違和感を持つゲストもいることだろう。
確かに、ホテルサービスという点からはまだ進化の途上ともいえる。一方で星野リゾートのファンは、完璧さばかりを求めないサービスや、施設それぞれの持つ個性、新鮮な距離感を楽しんでいるかのようだ。そうした、現代のユーザーに受け入れらやすい斬新さも星野リゾートファンにとっては魅力なのかもしれない。
星野リゾート。その取り組みや経営手法、施設展開ばかりが注目されるが、一貫しているのはそれぞれの土地にある風土や文化へのリスペクトだ。そこにはもはやカリスマはいない。
●写真提供/瀧澤信秋