【カレンダーから「今日」を簡単に見つける方法】

 佐藤さんが認知症を患うようになって苦労したのが、予定管理だ。朝起きると、その日の約束を忘れている。スケジュール帳に細かく記入してみたがうまくいかない。

「認知症だと、たくさん書いてある予定の中から、どれが今、自分の見たい情報かを見つけるのが、とても大変なんです」

 そもそも“今日”が、何月何日か思い出せないこともある。スケジュール帳のどこを見ればいいのか、どんどん分からなくなる。そこで使うようになったのが、iPadだ。予定管理アプリ「グーグルカレンダー」には、紙の手帳にない利点があるという。

「画面の左上に『今日』というボタンがあるんです。そこを押すと、今日のスケジュールだけが表示される」

 これなら“今日は何月何日か”というところから、考え始めなくていいので、心理的負担も少ない。

【携帯のアラームで「日課」を表示】

 デジタル機器は操作や設定が複雑そうだから、認知症当事者と最も縁遠いものと思われがちだが、佐藤さんは積極的に利用法を考え出している。

 たとえば携帯のアラーム。佐藤さんが使うのはガラケーだが、決まった時刻に音と合わせてメッセージを表示させる機能がある。視覚と聴覚による「思い出し」を同時にできるのはデジタル機器ならではの利点だ。

 起床時刻(6時30分)には、〈今日の予定を確認する〉と出る。前述のグーグルカレンダーを確認すること自体を忘れないようにしている。

 続いて7時35分、再びアラームが鳴ると、〈注射20単位〉の表示。糖尿病も患う佐藤さんは3食前のインスリン注射が欠かせない(1単位=0.01ml)。

「毎日必ずやることは、あらかじめ入れておく。入力や設定は、周りの人にやってもらえばいいんです」

■佐藤雅彦(さとう・まさひこ)/1954年岐阜県生まれ。認知症と診断されてからの自身の体験を綴った前著『認知症になった私が伝えたいこと』は2015年度日本医学ジャーナリスト協会賞優秀賞。「認知症とともに歩む本人の会」代表。

※週刊ポスト2016年6月10日号

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