気になるのはバトルの行く末である。総会では株主である三森家の発言が飛び出すことはなかったが、会場に詰めかけた1494人の株主の中からは、
〈お家騒動で大戸屋のブランドイメージが低下すれば株主価値も毀損する〉
〈新たな役員候補者は取引銀行や商社出身などフード業界の現場を知らない人ばかり。オペレーション中心の体制でうまくいくのか?〉
といった厳しい質問が相次いだ。
外食ジャーナリストの中村芳平氏は、将来の大戸屋経営について、こんな懸念を示す。
「創業家が過半数の株を握っていなかったことが不幸の始まりですが、資本と経営は別物。前会長が守り抜いてきた『昔ながらの定食屋』という原点を忘れ、経営の効率化やシステム化にばかり突き進めば、いずれ競合他社との差別化が難しくなり、最終的に投資ファンドの標的になる恐れも否定できません」
中村氏は、1990年代後半に起きたモスバーガーの内紛劇を例に挙げ、改めて創業理念の重要性を説く。
「モスバーガーは現会長の櫻田厚氏の叔父である櫻田慧氏が創業した会社ですが、1997年に慧氏が60歳で急逝すると、後任人事を巡って激しい権力闘争が起きました。
一度は慧氏の身内の意向で“外様社長”が就いたものの、経営が安定せず。そこで、厚氏が周囲の待望論を背に、大株主を強引に説き伏せる形で経営陣を引きずり下ろしました。結局、モスバーガーは厚氏によって創業精神が継承されたため、マクドナルドやその他ファストフードとの激しい価格競争にさらされることもなく、独自のブランドを築き上げていったのです」(中村氏)
大戸屋の窪田社長は株主に向けた冒頭のメッセージで、こう述べた。
「『大戸屋の味を世界に広げたい』『世界中の人々の、心と体の健康を促進したい』という、故人の理念と志をしっかり受け継ぎ、当社をさらに大きく成長させることが、私どもの最大の責務であり、志半ばにして亡くなった尊敬する前会長への、最大の恩返しであると考えております」
今後、窪田社長は創業家や株主らの厳しい監視を受けながら、その“一大決意”の真価を問われていくことになる。