高齢になって点滴やチューブにつながれたような状態で長く生き続けたくないという願いを叶えられる人は、実は少ない。延命治療は医師にとって、診療点数を稼げるものであると同時に、医療行為を行なわないことの責任が追及され殺人罪に問われるリスクもあるからだ。そうしたなかで患者の家族が延命治療を断わるにはどうすればいいのか。
医療問題に詳しい古賀克重弁護士は、「自分の意思を明確にできるうちに『延命治療拒否の宣言書』を書くことが有効です」と語る。
意思表示の書面を事前に作成している人は、60歳以上の国民の約6%程度という調査結果もある(前出の2014年・厚労省意識調査より)。どのような内容を記せば良いのか。
「『この文書は私の精神が健全な状態にある時に書いたものです』と宣言したうえで、3つの項目をおさえることが重要です。
1つ目は『ただ単に死期を引き延ばすためだけの延命治療はお断わりします』と意思を明示すること。
2つ目は『ただし私の苦痛を和らげるためには、麻薬などの適切な使用により十分な緩和医療を行なってください』と、緩和医療と単なる延命措置をきちんと区別しておくこと。
そして3つ目は『私が回復不能な遷延性意識障害(植物状態)に陥った時は生命維持措置を取りやめてください』と、植物状態のまま生かされることを拒否しておくことです。
こうした宣言書は自分で作成することも、公証役場で専門家に作成してもらうこともできます。ただし、いずれにしても法的な拘束力はなく、その意味では確実に延命治療を断わる方法はありません。自分の意思を書類にまとめたうえで、家族や医師に考えを伝えていくしかありません」(古賀弁護士)
穏やかに旅立つための準備は簡単ではない。
※週刊ポスト2016年7月22・29日号