7月14日は内視鏡の日。新聞記事でそれを目にした評論家の呉智英氏は、その理由がダジャレであると知って絶句する。それでは国際的な記念日になりえない。7月14日はフランスの革命記念日だからだ。革命記念日の由来であるバスティーユ監獄襲撃について、内視鏡ではなく研究書から分かる内実を呉氏が解説する。
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7月14日の朝、紅茶にマドレーヌをひたして口にし、朝刊に目をやると、子供の頃の懐しい記憶がよみがえってきた。昆布飴をなめながらアヒル小屋の方で駄洒落を言い合っていた思い出である。
紙面には精密光学機器メーカー、オリンパスの広告が出ていた。「今日は内視鏡の日」。確かにオリンパスは内視鏡も作っているけど、今日はその発明記念日なのか。と思ったら、そうではなかった。「7.14(ないし)」なんだって。日本の光学技術は世界に通用するが、この駄洒落技術は通用しないだろう。それどころか、7月14日を内視鏡の日とするセンスも世界では通用しないだろう。この日はフランス革命記念日だからである。
フランスでは「国民祭日」と言う。英語では「バスティーユの日」と言う。バスティーユ監獄襲撃で革命が始まった日だからである。そして翌日のニュース(フランスでは14日夜)では、大型トラック暴走テロが報じられた。この日をねらった凶行らしい。
バスティーユの日を内視鏡の日としてしまうぐらいだから、日本でバスティーユ監獄襲撃の実体が知られていないのも当然だろう。政治学者の丸山真男は、何かの本にベルサイユ監獄襲撃と誤って出ていたと怒っていた。だいたい、ユしか合っていないし。
私も高校時代の世界史の授業では年号を暗記させられたことぐらいしか憶えていない。教科書には図版として監獄襲撃を描いた当時の銅版画が載っていた。圧政に怒った民衆が収監されている政治犯たちの解放を求めて監獄を襲撃しているように見えた。それが全然ちがうことを後に知った。
最近の教科書類では少し変わってきた。山川出版社の『詳説世界史研究』には「囚人7人を解放した程度」と記述されている。たいした意義はなかったことが感じ取れるが「囚人」の内容については書かれていない。自由と平等を訴えて政治犯となった革命家たち、と読む生徒も出てくるだろう。