「みんな、天むすの発祥地が三重県だって知らないわけでしょ? 広めてあげたというと恩着せがましいけど、名古屋には、“良いものならどんどん作って、それを広めていこう”という意識がある。名古屋人は『お値打ち』という言葉をよく使いますが、これも今でいう『リーズナブル』という言葉の先駆けですよ」
また、名古屋が何かにつけて目の敵にされるのは、「目が肥えた名古屋人の批評が面白くないからだ」という。
「江戸時代から、名古屋は『芸どころ』と言われました。東と西の間に位置するため、京都や大阪の役者も、東京の役者も双方が名古屋で興行する。見比べる機会があったのは名古屋だけだったので、目が肥えた名古屋人には辛辣な批評精神が育った。ですが、言われる方は面白くないので、『悪口ばかり言う』と批判の対象になったのでは?」
井沢氏の鋭い反論も名古屋人の「批評気質」ゆえか。
【PROFILE】いざわ・もとひこ/作家。1954年2月、愛知県生まれ。早大法学部卒。TBS記者時代の『猿丸幻視行』で江戸川乱歩賞を受賞、歴史推理小説に独自の世界を開いた。本誌にて『逆説の日本史』を好評連載中。
※週刊ポスト2016年8月19・26日号